授業力をみがく
AI時代の授業設計 ―「答え」より「過程」を評価する―
大垣女子短期大学 幼児教育学科 講師 岡本 英通
前回の配信「数学で使える『便利すぎて大丈夫?』なアプリとの付き合い方」を受けて、「AIを道具として利用するこれからの授業構想を、さらに詳しく知りたい」という声が届いたと聞きました。こうしたお返事は原稿執筆の励みになり、大変ありがたいことです。ありがとうございます。
中学校数学でAIと向き合うとき、ポイントは「使う/禁止する」ではなく、AIがある前提で「学びが起きる課題の形式」を考えることです。
海外でも同じ方向に舵が切られています。たとえば、オーストラリアのニューサウスウェールズ州では、州の教育省が学校向け生成AIツール NSWEduChat を整備し、児童生徒が使う Student Mode では「直接答えを与えるのではなく、ガイダンスを行い、自由記述の問いで批判的思考や理由・前提の言語化を促す」設計だと明記しています。 つまり、AIを答え製造機としてではなく、一緒に考える相手として位置づけ直しているわけです。
ここで大事なのが、「丸写しはモラルの問題ではない」という見立てです。AIが出す文章や解法は、見た目が整っていて説得力もあるため、課題が「答えを求めなさい」型のままだと、貼り付けただけで「できた」ように見えてしまいます。これは善悪の問題というより、課題形式とAIの相性の問題です。OECDも、一般目的の生成AIは課題の遂行を「うまく」見せやすい一方で、教育的な意図がない使い方だと「パフォーマンスが上がっても学習の伸びは伴わない」ことを強調しています。さらに、生成AIにアクセスできる学生は高品質なアウトプットを出せても、試験などでアクセスが外れるとその優位が消え、ときに逆転するという研究知見も整理されています。そのため、授業ではゴールを「答えを出すこと」から「学びの過程を自分で言葉にして明確にすること」へ切り替えます。おすすめは、子どもに考えさせる内容を次の三点セットにすることです。
まず、自分の力で解き方や考えをできるところまで書きます。
次に、AIの出力と自分の考えを比べ、違いを見つけて書きます(前提の置き方、条件の扱い、定義の明確さ、飛躍、曖昧な表現など)。そして、AIをどこで・何のために使ったかを記録します。
最後に、代入・反例・別解・図やグラフなどで確かめた記録(検証や検算)を一つ残します。 この形にすると、AIを使っても丸写しでは終われず、むしろ比較と検証の質が評価される課題になります。
他にも、子どもが使うAIが答えをそのまま提示しないように、ツール側の設計を工夫する方法もあります。冒頭で述べたNSWEduChatの Student Mode はその一例で、学習を支えるために「直接答えを出すのではなく、ガイダンスと問いかけで考えを促す」ことが明示されています。
ただし、こうした学びを促すAIの設計は簡単ではありません。実際、私自身も(研究として)学習を支援するAIの設計に取り組んでいますが、意図していない支援が起きたり、答えを言わなくてもヒントを出し過ぎてしまったりするなど、難しさを感じる場面が多くあります。
そのうえで、現場で取り入れやすい話として、GoogleのGeminiには Gems という「目的に合わせてカスタムしたAIアシスタント」を作る機能があります。Gemsは、役割やルール、出力形式などをあらかじめ設定しておけるため、毎回同じ指示を打ち直す手間を減らせます。さらに、Gemini Appsのヘルプでは、Gemsを共有して他者に使ってもらう機能が案内されています。 学校のGoogleアカウント(Google Workspace)では、管理者設定やアカウント種別によって共有できる範囲が制限されることがあります。もし共有が可能な環境であれば、先生が「答えは直接言わず、まず考えを引き出す質問をする」といったルールを組み込んだGemsを用意し、授業の方針に沿う形でAIのふるまいを整える、という発想も成り立ちます。
AIは、学びを無意味にしてしまう存在にも、学びを深める相棒にもなります。私の個人的な見解としては、「AIを使っても学びを深められる課題形式にすること」と、「学びを促すようにAIのふるまいを整えること」の両方が重要だと考えています。
答えを集める授業から、説明を磨き、根拠で確かめ、誤解の少ない表現へ改善する授業へ。そこにAIを置くと、便利さがそのまま思考の教材になるのではないでしょうか。
〔参考引用〕
NSW Department of Education. (n.d.). NSWEduChat.
https://education.nsw.gov.au/teaching-and-learning/education-for-a-changing-world/nsweduchat
OECD. (2026). OECD Digital Education Outlook 2026: Exploring Effective Uses of Generative AI in Education. OECD Publishing.
https://doi.org/10.1787/062a7394-en
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岡本 英通(おかもと ひでみち)
1993年生まれ
岐阜県内の公立小・中学校(数学科)を通算で4年間、教諭として勤務
2018年 岐阜大学大学院 教育学研究科総合教科教育専攻 サイエンスコース 数学(修士課程)修了
2023年 カールスルーエ教育大学(原文: Padagogische Hochschule Karlsruhe, ドイツ) 自然社会科学数学科後期課程修了
2023年 博士(哲学)カールスルーエ教育大学
現 職 学校法人大垣総合学園 大垣女子短期大学幼児教育学科 講師
専 攻 数学教育学,創造性・創造的思考,遠隔協働学習
※Padagogische Hochschule Karlsruheの“Padagogische”のはじめのaは上部に‥がついたもの。文字化けを避けるためこの表記にしております。
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