授業力をみがく
理解するとは何でしょうか
大垣女子短期大学 幼児教育学科 講師 岡本 英通
前回の記事の最後に、次回は言語習得や概念理解の困難さが教育に与える影響について書いていきたいと記しました。この記事を書きたいと強く思ったキッカケは、現在慶応義塾大学で教鞭をとられている今井むつみ先生の御著書「学力喪失──認知科学による回復への道筋 (岩波新書)」を読んだからです。この本を、もっと早く読みたかったと切実に感じています。なぜなら、私が小学校教諭をしていた際の悩みに対する問題提起やその解決の糸口が、所狭しと詰め込まれていたからです。
例えば、算数の文章題が解けないとき、「子どもの読解力が低いから」の一言で片付けてしまいがちです。教師は子どもやその親にも「読解力を上げましょう」と言うものの、言う方も言われる方も、具体的に何をすればいいのかや、そもそも読解力とは何なのかが分からない状況に陥っているのではないでしょうか。そうした状況に対して、今井先生は「読解力」を分かりやすく定義しています。その上で、積み重ねられた調査の結果から、子どもの学力をいかにして捉えるのかを考えておられます。
調査結果の中には、算数で出てくる「ひとしい」という単語を正しく理解できていたのが、対象となった小学2、3年生の約30%だったというものもあります。この結果を読んだとき、「果たして私が授業中に話していた内容や言葉を、子どもはどれだけ理解していたのだろう」と思いを巡らせ、自戒の念に苛まれました。もしかしたら、私の言葉がほとんど届いていなかった子もいたのかもしれません。分数などの抽象的な概念は、もっと理解しがたいものだったはずです。本書でも、分数に関する概念獲得の困難さについて、膨大な調査に基づいて記されていました。このように問題を明らかにした上で、問題解決のためにどうすればいいのかについても、今井先生は示してくださっています。
1つの方法として、子どもが概念をイメージしやすくする手立てを考えるという解決策です。そこで紹介されていたものに「分数のたつじんトランプ」というものがありました。通常のトランプの数字が分数になっており、その分数を示す図(2分の1であれば、半分のリンゴなど)も一緒に描かれてあります。このトランプを使って大富豪(大貧民)というカードゲームをします。このゲームは、数の大小関係が分かっていないとできないゲームですので、分数の大小関係が理解できなくては、ゲームで勝てません。このように、視覚的かつゲーム要素を含めて楽しく分数を学べる手立てを提案されています。また、このようにゲームで楽しく学ぶ環境にすることで、まだ分数を学習していない学年の子どもでも、このトランプを使って遊び始めるという報告があるそうです。このように「楽しみながら、概念の理解をイメージしやすくする環境作り」をすることで、よりよい学びを生み出せる可能性が示されています。
私の文章では、今井先生の御著書のすごさの一端しかお伝えすることができません。認知に関する深い話や今後の学力についてが、もっとぎゅっと詰まっています。ぜひ、一度皆さんも書店に足を運び、この本を手に取ってみていただきたいです。
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岡本 英通(おかもと ひでみち)
1993年生まれ
岐阜県内の公立小・中学校(数学科)を通算で4年間、教諭として勤務
2018年 岐阜大学大学院 教育学研究科総合教科教育専攻 サイエンスコース 数学(修士課程)修了
2023年 カールスルーエ教育大学(原文: Padagogische Hochschule Karlsruhe, ドイツ) 自然社会科学数学科後期課程修了
2023年 博士(哲学)カールスルーエ教育大学
現 職 学校法人大垣総合学園 大垣女子短期大学幼児教育学科 講師
専 攻 数学教育学,創造性・創造的思考,遠隔協働学習
※Padagogische Hochschule Karlsruheの“Padagogische”のはじめのaは上部に‥がついたもの。文字化けを避けるためこの表記にしております。
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