中学生エデュフル

授業力をみがく

3Dプリンタで広がる数学教材の可能性

その他 全学年 2026/8/25

(前回の内容はコチラ)

大垣女子短期大学 幼児教育学科 講師 岡本 英通


 私が学校現場で教員をしていたとき、算数・数学の授業における具体物の大切さを強く感じていました。図や式だけでは理解しにくい内容でも、実際に手で動かしたり、重ねたり、分けたりすることで、子どもが「ああ、そういうことか」と納得する場面があります。 一方で、具体物教材を十分に用意することの難しさも感じていました。市販の教具は想像以上に高価で、授業で使いたいと思っても、1人に1つずつ操作できるほどの数をそろえることは簡単ではありません。また、「この子には、もう少し単純な教材が必要だ」「この単元では、この部分を実際に動かせる教材がほしい」と思っても、そのような教材が市販されているとは限りません。 そこで可能性を感じているのが、3Dプリンタを用いた教材づくりです。

 高価で特別な機器という印象がある3Dプリンタですが、家庭や学校でも導入を検討しやすい機種が増えてきました。印刷速度や精度も向上し、建築物を造形する大型のものから、細かな部品を作る精密なものまで、さまざまな分野で活用が広がっています。こうした技術が身近になることで、学校教育においても、教師や生徒が必要な具体物を自分たちで作る可能性が広がっています。
 私自身は、Bambu Lab A1という3Dプリンタを用いて、算数・数学の具体物教材を作成しています。最近は、立方体の切断面を考える教材を作成しました。

 中学校数学では、立方体を平面で切断したときに、切断面が三角形、四角形、五角形、六角形などになることを考える場面があります。しかし、この内容を頭の中だけでイメージすることは、生徒にとって簡単ではありません。そこで、実際に立方体を切断した形を3Dプリンタで作成し、切断面を手に取って確認できる教材にしようと考えました。

 作ってみると、想像以上に難しいこともありました。特に苦労したのは、切断された立体同士を元に戻せるようにするためのマグネットの入れ込みです。磁石を入れる穴の位置が少しずれると、うまくくっつかなかったり、立体としてきれいに戻らなかったりします。教材として使うためには、単に形ができればよいわけではなく、生徒が安全に、何度も操作できるようにする必要があります。この経験を通して、市販の教材を作成されている方々の大変さと、その完成度の高さも改めて感じました。
 それでも、自分で教材を作ることには大きな魅力があります。授業で使いたい場面を思い浮かべながら、「ここは色を変えた方が見やすい」「この部分は取り外せる方がよい」「この大きさなら生徒が持ちやすい」と考え、少しずつ形にしていくことができます。そうして完成した教材を手に取ったときには、教師自身の授業づくりの発想も広がります。

 3Dプリンタのよさは、特別な教材や高度な教材を作ることだけではありません。算数・数学のごく初歩的な考え方を支える具体物も作ることができます。
 以前、円の中に円があり、三日月のような形の面積を求めることが苦手な子どもに対して、実際に操作できる具体物を作成したことがあります。写真にある緑色の三日月のような形の面積をもとめるという問題です。

 その子は、式だけで学習すると求め方を忘れてしまうことがありました。しかし、具体物を動かしながら「大きな円から小さな円を取り除く」「残った部分に注目する」といった考え方を確認することで、面積の求め方が以前よりも定着しやすくなりました。
 現在は、教材づくりを支える環境も整ってきています。MakerWorldのように、すでに作成された3Dモデルを探せるサービスがあります。また、Tinkercadのように、直感的な操作で3Dモデルを作成できる無料のソフトもあります。さらに、Meshy AIのように、テキストや画像から3Dモデルを生成できるAIサービスも登場しています。
 もちろん、AIで作成したモデルをそのまま数学教材として使えるとは限りません。寸法や形の正確さを教師が確認し、必要に応じて修正することが大切です。それでも、教材づくりのたたき台を作る手段として、大きな可能性を感じます。

 一方で、3Dプリンタによる教材づくりには時間がかかります。データを作る時間、印刷する時間、印刷後に調整する時間が必要であり、ボタンを押せばすぐに教材が完成するわけではありません。しかし、3Dプリンタ本体の進化や、3Dモデル作成ソフト、AI、データ共有の広がりによって、この負担は少しずつ小さくなっていくのではないでしょうか。一人の教師がすべてを一から作るのではなく、先生方がデータを共有し、少しずつ改良していけば、よりよい教材を共同で作っていくことも可能です。 将来的には、教科書に3Dプリンタ用のデータが付属し、先生や生徒がそれをダウンロードして具体物を作る時代が来るかもしれません。教科書の二次元コードを読み取ると、立体の切断面モデルや展開図モデル、小数・分数の具体物教材のデータを取得できる。そして、学校や家庭の3Dプリンタで出力し、実際に手で操作しながら学ぶ。そのような学び方も、これからの教材のあり方として十分に考えられます。

 AIやデジタル技術が進むほど、学びは画面の中だけで完結するように見えるかもしれません。しかし、算数・数学には、手で触れ、動かし、比べることで初めて見えてくるものがあります。目の前の子どもに合う具体物を考え、作り、手渡すことは、これからも教師にできる大切な仕事の一つだと思います。
 教具は「買うもの」から「つくるもの」へ。3Dプリンタは、見えにくい考え方を手に取れる形にし、子どものつまずきに合わせて教材を作り変えていく、これからの数学授業の可能性を広げてくれるのではないでしょうか。

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岡本 英通(おかもと ひでみち)
1993年生まれ
岐阜県内の公立小・中学校(数学科)を通算で4年間、教諭として勤務
2018年 岐阜大学大学院 教育学研究科総合教科教育専攻 サイエンスコース 数学(修士課程)修了
2023年 カールスルーエ教育大学(原文: Padagogische Hochschule Karlsruhe, ドイツ) 自然社会科学数学科後期課程修了
2023年 博士(哲学)カールスルーエ教育大学
現 職 学校法人大垣総合学園 大垣女子短期大学幼児教育学科 講師
    京都府立医科大学 生命基礎数理学 研修員
専 攻 数学教育学,創造性・創造的思考,遠隔協働学習


※Padagogische Hochschule Karlsruheの“Padagogische”のはじめのaは上部に‥がついたもの。文字化けを避けるためこの表記にしております。

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