授業力をみがく

恋愛で学ぶ代表値

（前回の内容はコチラ）

大垣女子短期大学 幼児教育学科 講師　岡本 英通


　急に恋愛の話が出てきて驚かれるかもしれません。この「恋愛」というのは、思春期の多感な時期の子どもにとって重要なものではないでしょうか。
　中学校で勤務していたとき、「代表値」を学んだ後の生徒と休み時間にした話です。子どもたちにとって関心の高い「恋愛」の話題と結びつけて、平均値と中央値のちがいを説明しました。今回は、そのときのエピソードを思い出しながら書いていきます。
　子どもたちと、こんな風に話をしました。

　ちょっとイメージしてほしいことがあって……、あなたはパートナーと一緒に、あるショッピングモールに行ったとします。そこでショッピングをしていると、ものすごくステキなモデルのような店員さんがいたとして、そんなとき、あなたのパートナーはどんな反応をしている？
　もし、そのステキな店員さんに目をうばわれる浮気性なパートナーなら、数学でいう「平均値タイプ」の人。
　もし、ステキな店員さんが通りかかっても、あなたから視線を外さないようなら、そのパートナーは頑固で一途な、数学でいう「中央値タイプ」の人。
　これだけの説明だと「意味わかんない」と思うよね。
　普通はこんなことを考えるのはいけないことだけど、今は理解をするために、人に点数をつけてみるね。

　例えば、人を「顔」、「服のセンス」、「性格」、「運動神経」、「話しやすさ」の5つの観点で評価をするとしよう。
　まずは、パートナーから見たあなたの評価を仮に考えてみます。あなたとパートナーは毎日会っていて、楽しく過ごしている。そうなると、あなたの顔がモデルのようではなくとも、少し服のセンスが良くなくても、性格や話しやすさを高く評価してくれるはず！ だから、こんな感じの点数になるのではないかな。

パートナーのあなたに対する評価は
（顔、服のセンス、性格、運動神経、話しやすさ）＝（40点、30点、80点、70点、80点）

　じゃあ次に、先ほどショッピングモールで会ったステキなモデルのような店員さんに対する評価を考えてみよう。あなたのパートナーにとって、モデルのような店員さんの「顔」の評価は、ものすごく高い値。でも、店の客と店員さんの関係性では、性格がいいのか、運動ができるのかはわからない。そのため、評価することができず0点という評価になる。でも、ステキな店員さんはお顔もモデルのようで服のセンスも良いから、こんな感じの点数になるのではないかな。

パートナーのステキな店員さんに対する評価は
（顔、服のセンス、性格、運動神経、話しやすさ）＝（300点、80点、0点、0点、50点）

　評価ができた。顔の評価はめっちゃくちゃ高い。すると、あなたのパートナーは考えるはずです。あなたとステキな店員さんのどちらが魅力的なのか。
　あなたのパートナーが浮気性の「平均値タイプ」だとしましょう。パートナーが行ったあなたの評価の点数を「平均値」で考えると、パートナーのあなたに対する評価は（顔、服のセンス、性格、運動神経、話しやすさ）＝（40点、30点、80点、70点、80点）だから、（40＋30＋80＋70＋80）÷5で、あなたの評価の平均値は「60点」です。
　一方、パートナーの店員さんに対する評価は（顔、服のセンス、性格、運動神経、話しやすさ）＝（300点、80点、0点、0点、50点）だから、（300＋80＋0＋0＋50）÷5で、パートナーの店員さんに対する平均点は「86点」です。
　平均値で考えると、あなたはステキな店員さんに負けてしまう……。
　でも、あなたのパートナーが頑固で一途な「中央値タイプ」だとします。パートナーのあなたに対する評価は（顔、服のセンス、性格、運動神経、話しやすさ）＝（40点、30点、80点、70点、80点）だから、小さい順に並べれば、30、40、70、80、80で、中央値は真ん中の「70点」です。
　そして、パートナーの店員さんに対する評価は（顔、服のセンス、性格、運動神経、話しやすさ）＝（300点、80点、0点、0点、50点）だから、小さい順に並べれば、0、0、50、80、300で、中央値は真ん中の「50点」です。
　中央値で考えると、あなたはステキな店員さんに勝てた！

　平均値は「外れ値」というものに、ものすごく影響されるって話したよね。今回でいえば、何が外れ値になるかわかる？ そう、店員さんの「顔」の評価が「外れ値」です。この「顔」の点数が高すぎて、わからないから0点という項目があるにも関わらず、平均点はかなり高くなった……。でも、中央値は「外れ値に左右されにくい」です。たとえ、ステキな店員さんの「顔」の点数が高くても、中央にある値を考えるので、高すぎる点数にひっぱられてしまうことが起こりにくい。
　ふっと現れた美男美女に引っ張られてふらふらする浮気性は「平均値」タイプで、たまに出てくる美男美女に目もくれず頑固で一途な場合は「中央値」タイプだと考えることもできますね。


　こんな話をしたら、ある生徒に、「先生、それってつまり……僕の彼女が“中央値タイプ”だったら、どんなイケメンが現れても安心ってことですよね？！」と言われました。すると別の生徒がすかさず、「いやいや、安心しちゃダメでしょ！ だって中央値って“他の点数もまあまあ高い”ときにしか勝てないんだよ。つまり、お前もそこそこ良くないとダメってことじゃん！」
　そんな子どもたちの話を聞いて、よく代表値を理解しているなと感心しました。
　人に点数をつけることはあまりオススメできる話ではありませんが、数学と恋愛を結び付けて考えるのは面白いなと感じます。
　あなたは「平均値タイプ」ですか？ それとも「中央値タイプ」ですか？

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岡本　英通（おかもと　ひでみち）
1993年生まれ
岐阜県内の公立小・中学校（数学科）を通算で4年間、教諭として勤務
2018年　岐阜大学大学院　教育学研究科総合教科教育専攻　サイエンスコース　数学（修士課程）修了
2023年　カールスルーエ教育大学（原文: Padagogische Hochschule Karlsruhe, ドイツ） 自然社会科学数学科後期課程修了
2023年　博士（哲学）カールスルーエ教育大学
現　職　学校法人大垣総合学園 大垣女子短期大学幼児教育学科 講師
専　攻　数学教育学，創造性・創造的思考，遠隔協働学習


※Padagogische Hochschule Karlsruheの“Padagogische”のはじめのaは上部に‥がついたもの。文字化けを避けるためこの表記にしております。

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