中学生エデュフル

授業力をみがく

対話的な学びの実現に向けて(3)

数学 全学年 2020/5/19

宇都宮大学准教授
牧野 智彦

(前回の内容はコチラ)

3 対話的な学びの実現に向けて

 中学生だからではなく,日本人には,そもそも「対話」を行うことが,歴史的,文化的にみて,困難であることを認識することがまずは大切です。対話的な学びの実現に向けて,中学校3年間で,対話的能力の育成と「対話的な精神」の養成が求められます。なお,「対話的な精神」とは,異なる価値観を持った人と議論を重ねることで,自分の意見が変わっていくことを「潔い」とすると同時に,自分の考えが変わっていくことに「喜び」さえも見いだす態度です。
 「対話」をレンズに数学の授業を振り返ると,多様な考えを取り上げて,それぞれの考えについて発表したり,聞いたりすることはよく行われています。しかし,異なる考えを対立させて,新しい考えを生み出すことは,あまり行っていないのではないでしょうか。多くの数学授業の話し合いは「会話」にとどまっているといえます。とはいえ,最初から,生徒同士で「対話」をすることは難しいです。そこで,教師の働きかけが重要になってきます。まずは,教師が介入して,生徒の考えと対立する考えを提案するなどして,授業に「対話」の構造をつくる必要があります。そして,新しい考えを創造するために,教師がガイドすることが大切です。その際に,「意見が変わることは恥ずかしいことではなく,新しい発見の喜びさえあること」を演示することが重要です。少なくとも,教師が,「なんでわからないんだ」とイライラしたり,「どうせわからないだろう」と諦めたりするなど,「対話」の雰囲気を消さないように留意したいものです。
 最後に,対話のプロセスの言動(生徒,教師)を「板書」しておくとよいと思います。そうすれば,生徒のノートには,数学の内容だけでなく,授業中の対話のプロセスも残ります。それによって,次の対話の機会のときに活用することができます。このような積み重ねで,生徒の話し合いが,「会話」から「対話」に徐々に変わっていくのではないでしょうか。

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牧野 智彦先生
1973年群馬県みなかみ町出身。群馬大学教育学部数学科,筑波大学大学院修士課程教育研究科,筑波大学大学院博士課程教育学研究科単位取得退学。国立教育政策研究所教育課程研究センター,上武大学を経て,2010年より現職。主な出版物は,『教科教育の理論と授業U:理数編』(大熕・清水美憲編著,分担執筆,協同出版,2012年),『教科教育学シリーズB算数・数学科教育』(藤井斉亮編著,分担執筆,一藝社,2015年)。

この原稿は,「理数啓林 授業力をみがく」に掲載された内容を一部改変したものです。

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