授業力をみがく
授業をデザインする(12)ICTの効果的な活用(2)
比治山大学現代文化学部 教授 鹿江 宏明
前回は,思考場面における「他者参照」について話題にしました。今回は,観察や実験におけるICTの活用場面を考えてみましょう。
〇観察・実験の映像記録ツール
観察や実験を班ごとに実施しているとき,個々の生徒の視点は教師が想定しているよりも多様です。結果を考察する場面で,生徒間で「どうだった?」と活動をふり返ると,意外と重要な場面を見落としていることが多くあります。
そんなとき,観察や実験の活動が動画や画像で記録されていると,ふり返りの場面で生徒のあやふやな記憶を呼び起こすことができます。動画や画像などの映像記録には,言葉よりも多くの情報があります。考察場面で映像記録を使うことにより,生徒の中に「納得感」が生じ,より確かな学力の定着を期待することができます。
また,映像記録を残すには,「目的」や「仮説」が明確でないとよい記録になりません。撮影する場所やタイミングがわかっている=目的や仮説を把握していることにつながります。観察・実験の映像記録を残す活動は,「何のために実験をしているか」「どのような結果が必要か」を意識しながら活動することにもつながります。
このように,自分たちで撮影した映像記録は,観察・実験の活動後や単元末で学習をふり返るときに生徒の記憶を呼び起こしてくれるツールとして活用できます。
〇観察・実験結果の共有
授業では,観察・実験で班ごとに得た結果を生徒のワークシートやノートに書かせています。それと同時に,班ごとの結果を,活動が終わった班から教室の黒板に書かせたりすることがあります。このような,生徒による板書は,@各班の進捗状況が全員で把握できる,A各班の結果が全員で共有できる,B結果が著しく異なった班へ再実験の必要性に気づかせることができる…などの利点があります。
この,板書での共有を,デジタルで共有してはいかがでしょう。数値や語句を記入する表や,結果の写真を貼り付けるシートを,デジタルで生徒と共有設定しておけば,黒板に移動して書き込む作業が自席で可能になります。これまで黒板で共有していた学習活動が,生徒の端末画面上でできます。
また,デジタルの利点はデータの活用を広げることにもあります。例えば,学級の班の数が少なくデータ量が心細いときには,別の学級のデータを提示し量を増やすことで,結果の客観性を向上させることができます。デジタルデータは保管が簡単なので,データを蓄積しておけば「昨年実施した先輩たちのデータと比較してみよう」などのような学習活動も可能になります。なお,扱うデータは,気温,気圧,時刻,場所などの要因に影響を受けないデータであることに注意しましょう。
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鹿江 宏明(かのえ ひろあき) 博士(教育学)
1963年生まれ
中学校理科教諭として23年間広島県・市の公立中学校、広島大学附属東雲中学校に勤務
1989年 広島大学大学院学校教育研究科(修士課程)修了
2009年 広島大学大学院教育学研究科博士課程後期修了
現 職 比治山大学現代文化学部 教授
活 動 教員養成のほか、科学館のサイエンスショーや科学講座、NPO法人学修デザイナー協会理事長、一般社団法人日本アマチュアオーケストラ連盟理事など、幅広く活動している。
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