中学生エデュフル

授業力をみがく

数学者ガウスが人生を全うした大学都市ゲッチンゲン

その他 全学年 2021/11/30

岐阜大学教育学部 准教授 河崎 哲嗣


 皆さん、こんにちは。河崎です。前回までは教育制度や一般的な普段の授業風景、長期休業期間中の先生や子どもの習慣を少し紹介しました。当たり前だと思う風土や習慣・伝統・文化は、ふとしたことで違いに気づくものです。
 ドイツと言えば、真っ先に思い浮かぶのがビール。ドイツで飲酒が認められる年齢は日本と異なり16歳以上です。お酒の好きな人達からは「なんて幸せな国なんだろう」と思われる反面、非行や風紀が乱れないか懸念します。とある中学校段階の学校訪問をした際、授業を受けていた生徒達が校門付近で喫煙をしている場面に出くわしたことがありました。思わず立ち止まり、担任の先生へ「未成年の生徒達がたばこを吸ってるよ、注意して止めなきゃ」と言いましたが、「校内施設では禁止だけど、外に出れば自己責任なのよ。関知しないの」と、見向きもせず通り過ぎようとします。日本人の私に「さようなら」と声をかけ手を振る生徒達に、どう返せば良いのか困惑し、複雑な気持ちになったものです。良いように解釈すれば、自分で考えて自分で判断させる成熟した世界観なのでしょう。ドイツは日本と同様に治安が安定・維持されている国ですが、その違いは不思議に思います。
 国際交流を長年続けていると、ガイドブックや紹介サイトには掲載されていないような世界に惹かれていきます。そこで前回の記事写真の貨幣の人物に深く関わる都市のお話もしたくなったわけです。肖像画の人物は数学者ガウス。物理学者でもあり天文学者でもある天才です。ユーロ紙幣ではなく「マルク貨幣」だったことにはお気づきでしょうか? 2005年に渡欧したときは、偶然にも彼の没後150周年にあたりました。前回の写真の1枚は、そのときの記念コインです。

(前回の内容はコチラ)

 算数・数学の内容「データの活用」として統計領域が扱われてから十数年程経ちますね。小学校から中学校にかけては、データを集計して度数分布表→ヒストグラム→箱ひげ図のような離散値のデータを扱う「記述統計」を扱い、その後、高校で確率を詳しく学び、連続的な確率変数を分布に置き換えた関数を扱います。紙幣のガウスの横のグラフを拡大してご覧ください。彼が発明した標準正規分布を表すグラフが描かれています。ガウスの貢献のお陰で、推定や検定などの「推量統計」が格段に発展しました。高校へ入学すると関数のひとつとして登場するお馴染みのガウス記号[x](実数xについて,このxを越えない最大の整数)や、電磁気の磁束密度の単位の「ガウス」などは、彼の功績の一部です。彼は当時の日本でいえば江戸時代の人ですが、今でも学校の授業の中で貢献して登場していますから、これまた驚きです。その彼が人生を全うしたのが『ゲッチンゲン』という都市なのです。第二次世界大戦が始まる前までのナチスが台頭し、多くのユダヤ人や著名人達がアメリカなどへ亡命するまでは、この都市が世界の数学や科学や技術などの先端の拠点地でした。また、アメリカの大学都市・学研都市のモデルとなった都市でもあり、ノーベル賞受賞者も30名以上輩出しています。この都市を散策すると、ゲッチンゲン大学で学び、研究の拠点としていた著名人の足跡に出逢えることでしょう。


電信機の発明をしたガウスとヴェーバーが議論をしている様子

ガウスが所長として勤めた天文研究所

壁に組み込まれたプレートには,ガウスが1796〜1798まで滞在した住居と明記

ガウスの墓

 これらは20年弱前に当時の京都教育大学の数学科の先生方と共に、暗中模索をして手繰り寄せたものばかりで、今でも定期的に位置のおさらいをしに訪れています。次回以降に紹介や案内を出来れば、と考えております。特に数学科や理科や技術科の先生或いは哲学や文学にご興味ある方はぜひ一度訪れてほしい都市です。


 ベルリン郊外にて、いつものようにガラクタ店の前をただ通り過ぎるはずが、ショーウインドウから熱い眼差しと引きの強さ。私の足を止めさせたマイセン陶貨メダル。あまりに奇跡的な出逢いでした。


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河崎哲嗣(かわさき てつし)  
1964年生まれ
数学科教諭として、23年間京都府立高等学校・京都教育大学附属高等学校に勤務
2002年 京都教育大学大学院教育学研究科(修士課程)修了
2016年 大阪大学人間科学研究科博士後期課程修了 
2016年 博士(人間科学)大阪大学
現 職 東海国立大学機構 岐阜大学教育学部准教授
専  攻 数学教育学,教育工学,国際遠隔協働学習,STEAM

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