授業力をみがく
教員免許と教育制度A
岐阜大学教育学部 准教授 河崎 哲嗣
ドイツの学校制度を大まかに纏めると,日本でいう小学校Grundschuleは1年生〜4年生までの4年間です。ここで子ども達は将来の進路も考えます。卒業後は,大きく3つに分けられた複線型の学校を選びます。職業教育を行うHauptschule(中学校),高等教育を目指したいならばGimnasium(ギムナジウム),進学か働くか未だ決め切れていない子どもはRealschule(中学校)という具合です。そんなに早く将来が決められるの? という議論は当然起きています。最近はGimnasiumを選ぶ傾向が強いそうですよ。

10年ほど前,バイエルン州のミュンヘン郊外にある小学校の,4年生の算数授業を見学に行きました。写真はその際に撮影したものです。この写真では切れていますが,黒板は理科の教室のように二枚の上下動で,折りたたみ式でした。前の壁全体を覆うような大きさになります。1クラスの人数は30名程度で,日本の教室よりも小さい部屋です。子ども達は2人で1つの机。机の表面は緩やかな傾斜が施され,ペンやスティック糊などが転がって落ちないように溝が掘ってありました。
子どもの手の上げ方が特徴的ですね。日本のような指を伸ばして掌全体を見せる上げ方は,ドイツではタブーの仕草となっています。その理由については,ぜひ先生方に考えてみていただきたいところです。
手を上げる際に指を鳴らす子もいて驚きましたが,それよりも驚いたのは友達と問題を解いて話し合うときです。彼らは誰一人「鉛筆・消しゴム」を持ってノートに筆記していませんでした。ペン一本で,纏まった考えをノートに書き込んでいたのです。日本の「失敗しても良いから思いつけばどんどん書いて,後で消せば良い」という風習に対して,ドイツでは「失敗をしないようにじっくりと考えて,頭の中で整理してから書きなさい」という方針のようですね。時と場合にもよりますが,それぞれ良い教育効果があると思います。
このクラスの8割は純粋なドイツ人ではなく,他国の移民やドイツ系三世四世の人種であり,複雑な課題や実状を抱えているということでした。こういう多国籍の子ども達がHRを形成する時代が10年後日本にも来ると当時予想していましたが,如何でしょうか。
次の写真は、5年生Realschuleの教育実習の数学の授業(数量の比)です。前に立っているのは実習生ですが,日本の実習生と違ったラフな服装に驚いたことを憶えています。

いろいろなタイプの学校を訪問して授業見学もしました。今後は他の特色ある学校や,教員養成系課程の大学事情の話題も少しずつ紹介していきたいと思います。
もう1つの写真をご覧ください。次回は当時この人が活躍した都市を訪問した際のお話をいたしましょう。

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河崎哲嗣(かわさき てつし)
1964年生まれ
数学科教諭として、23年間京都府立高等学校・京都教育大学附属高等学校に勤務
2002年 京都教育大学大学院教育学研究科(修士課程)修了
2016年 大阪大学人間科学研究科博士後期課程修了
2016年 博士(人間科学)大阪大学
現 職 東海国立大学機構 岐阜大学教育学部准教授
専 攻 数学教育学,教育工学,国際遠隔協働学習,STEAM
次回配信予定日:11月30日
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