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教員免許と教育制度@

その他 全学年 2021/9/28

岐阜大学教育学部 准教授 河崎 哲嗣

(前回の内容はコチラ)

 皆さん,こんにちは。河崎です。前回の「世界の授業から」は如何でしたでしょうか? 日独の授業だけでも歴史・文化・風土の違いがあり,何気ない交流によって日々の教育活動の在り方や授業内容の仕組みを振り返れば,非常に有意義だと思います。コロナ禍の余裕のない大変な時期に先生方が努力されておられることには頭が下がる思いです。少しでもホッとするようなお話が出来たら,と思っています。ディープなドイツの楽しい話題も,今後のコラムでゆっくりと提供させていただきたいですね。
 ちなみに,今年も日独国際遠隔協働ゼミナールを,大学の後期の授業の中でテレビ会議システムを使って実施する予定です。テーマは「関数」と既に決まっています。日独と比較して授業の扱い方が明確に違いますから,折を見てどんなゼミナールになったかもお話いたしましょう。それまで,皆さんには色々な背景や考え方などを知っていただいた方が良いのではと考えています。

 日本の学校の夏休み明けの学期始まりは,9月1日に統一されていた記憶があります。北国は冬休みが積雪のため長くなるので,夏休みが短いという話を聞いた憶えも。今年は冷夏で涼しかったですが,8月末に開始している地域もあれば,休校で始業できない状況も未だあるようですね。
 ドイツの場合も地域によって始業日は異なりますが,9月下旬まで夏休みの筈です。西欧特有の前期後期のセメスター制で,年度始まりが9月下旬,年度終わりは7月20日前後です。日本より随分長い夏休みですね。
 以前,日本ではお目にかかれぬ場面に偶然出会えたときのお話をいたしましょう。
 ドイツ到着の次の日のことで,年度終業日の小学校に立ち寄ることが出来ました。教室では,子ども達は机の上に沢山の教科書を積み,担任の先生の長いお話を神妙に聞いていました。私にはそれが子守歌のように聞こえ,つい時差による疲れからウトウト。ハッと目を開けて一人の子どもと目が合ったことを憶えています。
 机の上に積まれた沢山の教科書。彼らは学校で使用した全教科の教科書を,順番に並んで校舎の地下の書庫に運びに行くのです。それは何故でしょうか? 教科書は学校,つまり自治体が購入し,毎年子ども達に貸し与えているものです。終業日はちょうどその返却日だったというわけです。
 私も促され,一緒に書庫へとついて行きました。責任者が,綺麗なものを除き少し傷んだ教科書を並べ,「日本に必要な分いるだろう? 選んで持っていけ!」と私に声をかけました。想像してみてください。心の準備をしていませんでしたし,日本の教科書の重量と大きさの比ではありません。トランクケースが重くなるのを恐れ,算数だけ選びましたが,「サイエンスは必要ないのかい? 英語もあるのだぞ!」と言われてしまいました。皆さんが学校を訪問するチャンスがあった際には,ぜひ帰国最終日にでも終業日の学校訪問を計画し,教科書を持ち帰っていただきたいです。空港での機内トランク預かりで重量オーバーによる超過金にはお気をつけください。

 さて,話を戻しましょう。
 ドイツでは,教科書は貸し出し本です。ドイツは小学校〜大学まで授業料は無償だからというのが理由です。子どもは国の将来の宝として,教育費に国家から多額の予算が投入されているのです。※大学は少しだけ負担するみたいです。
 私はすごく合理的なシステムだと思いましたが,皆さんは如何でしょうか?

 移動中の車内で,現地の教員に質問したことが幾つかあるのでご紹介いたします。

Q:「こんなに長い夏休みだと,子ども達の生活が乱れる心配はないの?」
A:「家庭的な事情のある子どもは心配だね。それ以外は充実して楽しいだろうね」
Q:「夏休み中に遊んでばかりで,学力低下を心配して夏休みの宿題など与えているのでしょう?」
A:「夏休みだよ! 何故宿題を与えて管理しなければいけないの? 彼らの成長過程のとても大切な自由期間でしょう。」
Q:「じゃあ,2ヶ月間教員も出勤することはないの?」
A:「当然」
Q:「給料は?」
A:「その間だけ無給。その代わり、普段の給与が充分過ぎる位満たされているよ」
Q:「中学校段階で週何時間の持ち時間だった?」
A:「ほとんど全時間埋まっていたかな?」
Q:「数学を全学年複数のクラスを受け持っていたの?」
A:「いや,理科と技術と,緊急で英語も担当したかな?」

 如何でしょうか。ドイツでは複数の異なる教科を教えるのが当たり前なのです。だから,夏期休業中は無給でも,平時はその分働くので高給となるようです。他国も同様なのかはわかりませんが,1教科しか教えない実態の日本は,世界的に珍しいのかもしれませんね。

 次回は学校の制度や小学校を訪問した際の授業の様子についてをお話をいたしましょう。

ハイデルベルク コンマルクト広場

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河崎哲嗣(かわさき てつし)  
1964年生まれ
数学科教諭として、23年間京都府立高等学校・京都教育大学附属高等学校に勤務
2002年 京都教育大学大学院教育学研究科(修士課程)修了
2016年 大阪大学人間科学研究科博士後期課程修了 
2016年 博士(人間科学)大阪大学
現 職 東海国立大学機構 岐阜大学教育学部准教授
専  攻 数学教育学,教育工学,国際遠隔協働学習,STEAM

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