授業力をみがく
世界の授業から
岐阜大学教育学部 准教授 河崎 哲嗣
皆さん、こんにちは。河崎哲嗣です。元高校の数学教諭で、現在大学に勤めております。
グローバルをと長年叫ばれ、高度情報化により今では世界情勢が簡単に分かり、国際交流も随分と身近になってきました。しかし、いざ授業や先生方の研究活動に活かそうにも、相手国の教育事情も知らないし、どのような仕組みを構成すべきか突破口も見つからず、困っているという話を聞きます。気楽にお話をさせて頂くことを条件に、今回、海外(特にドイツを中心に)の実状の発信依頼をお受け致しました。
ご存じのように日本とドイツは、明治より歴史・文化・伝統を中心に密接な関係を保っています。礼儀を重んじ、「ゲルマン魂」や「騎士道」そして共に科学技術創造立国・地域の経済大国であるように、よく似た国民性を持っているように思えます。しかし、僅か150年の間に、数学・科学を活用して産業や技術を成長させようと発展させてきた我が国に対し、古代ギリシアを源流に科学・数学を敬う意識が市民生活に根付くドイツの風土に憧れを感じています。
教員養成系大学の附属学校に勤務した頃、大学の国際交流の恩恵を受けて、今のドイツの友人達と出会いました。この1,2年途絶えていますが、毎年のようにドイツに赴いています。
友人のカールスルーエ教育大学と共同研究及び交流事業の開発をするために包括協定を結び、学生に学校の先生達も加えた日独遠隔協働ゼミナールを開講しています。中心命題は、算数・数学の教育カリキュラムや授業方法・技術の国際比較です。両国とも日々の授業や教材への気づきに繋がるのです。
昨年度は『分数の四則計算』の両国の授業動画を見て協議をしました。約分や通分、分数÷分数をどのように指導しているかご存じでしょうか? 中学校・高校では文字式・整式を扱う四則計算に繋がりますからとても重要です。特に「分数÷分数」は、「割る分数の逆数を掛けて」機械的に計算します。「何故逆数を掛けるのか」を学んだ中学生や高校生にも聞いてみてください。日本側の典型的な題材は、
3/4 dl のペンキで,板を 2/5 m^2 塗れました。このペンキ1 dl では,板を何m^2 塗れますか?
であり、「数の計算」に異なる「量」を含ませて課題を提示します。単位あたり量を基準にする計算方法を学ぶのです。方やドイツでは、図や代数計算の決まりに従ってシンプルに指導します。タイル図と線分図を混在させて、異なる数量を同じ尺に並べ、同時並行して考えるやり方は行いません。1つずつ解決したら次の段階に進むように、子どもたちに混乱が起きないように弁証法的に丁寧に指導するのです。ドイツ側からの「かさと面積を同じ縮尺上に重ねて理解することができるのか」「何故異なる量を同じ単位基準で考えられるの?」「線分図やブロック図の意味が分からない」という質問や意見が出ました。よく似た国民性を持っていて身近に感じられやすい日本とドイツですが、教え方ひとつでもこのような違いがあるのですね。
Auf Wiedersehen

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河崎哲嗣(かわさき てつし)
1964年生まれ
数学科教諭として、23年間京都府立高等学校・京都教育大学附属高等学校に勤務
2002年 京都教育大学大学院教育学研究科(修士課程)修了
2016年 大阪大学人間科学研究科博士後期課程修了
2016年 博士(人間科学)大阪大学
現 職 東海国立大学機構 岐阜大学教育学部准教授
専 攻 数学教育学,教育工学,国際遠隔協働学習,STEAM
次回配信予定日:9月28日
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