中学生エデュフル

授業力をみがく

西表島での学び

その他 全学年 2026/6/30

(前回の内容はコチラ)

大垣女子短期大学 幼児教育学科 講師 岡本 英通


 GW中に妻と西表島に行ってきました。石垣島から船に乗り、海を渡って西表島へ。西表島では、マングローブ林をカヤックで見たり、干潟で生き物を観察したりしました。
 西表島は、普段生活している場所とはかなり違う環境でした。大きな商業施設があるわけではなく、コンビニもありません。また、西表島には信号機が2つしかないと言われています。そのうちの1つは、子どもたちが島外に出たときに信号を理解できるように、交通教育の目的のため設置されたものだと紹介されています。ですので、時速60kmで進むと1時間後にちゃんと60km進むことができる、算数の問題がリアルで実現可能な島です。

 普段の生活では、信号もコンビニも当たり前のようにあります。必要なものがあればすぐに買うことができ、道路を渡るときには信号が判断の目安になります。しかし、西表島ではそうした便利さに頼りすぎることができません。必要なものは事前に準備し、道路や自然の中では自分で周囲をよく見る必要があります。一見すると、それは不便に感じられるかもしれません。しかし、実際に西表島に行ってみると、その不便さも含めて、島での体験を強く印象づける要素になっているように感じました。
 特に印象に残ったのは、マングローブ林です。カヤックに乗ってマングローブ林の中を進むと、普段の生活では見ることのない景色が広がっていました。マングローブの根は独特の形をしており、水辺に力強く広がっていました。写真や映像で見ることはできても、実際に近くで見ると、植物の大きさや水面との距離、周囲の静けさなどがより強く感じられました。
 マングローブ林をカヤックで見た後、潮が引いていき、川の上に干潟が現れました。干潟では、ミナミコメツキガニという小さなカニを捕まえるアクティビティをしました。実際に干潟を歩きながらカニを探すことで、生き物の動きや、足元の泥の感触を直接感じることができました。

 ガイドの方によると、このカニは、食べた後に口の中に甘みが残り、その後食べるものや飲むものが甘く感じられることがあるそうです。ミラクルフルーツのように味の感じ方が変わる不思議な生き物として紹介されることもあると教えていただきました。

 このような体験を通して、VRやタブレットなどのデジタル技術で学べることと、現地に行かなければ分からないことについて考えました。現在では、VRを使えば、遠く離れた場所の自然を立体的に見ることができます。タブレットを使えば、写真や動画、地図を通して、その場所について詳しく学ぶこともできます。将来的には、触角や嗅覚なども遠距離から伝えられるようになるかもしれません。砂の感触や海風のにおい、湿った空気なども、技術によってある程度再現できる時代が来る可能性があります。しかし、それでも現地に行くことには意味があると思いました。なぜなら、現地での体験は、その場で何を見たか、何を聞いたか、何に触れたかだけで決まるものではないからです。

 西表島に行くためには、まず石垣島まで行き、そこから船に乗って移動する必要があります。すぐにたどり着ける場所ではありません。移動には時間も手間もかかります。しかし、その時間があるからこそ、「これから西表島に行くのだ」という気持ちが少しずつ高まっていきます。船に乗り、海を渡り、島に近づいていく。その過程を経ることで、到着したときの景色や自然は、より強く印象に残ります。もし同じ景色を画面で、一瞬で見ることができたとしても、そこに至るまでの時間や期待、少しの不便さを含んだ体験とは、感じ方が違うのではないかと思います。

 つまり、現地に行く価値は、五感で感じることだけではありません。時間をかけてその場所へ向かうこと、その過程で期待が高まること、そして「自分はここまで来たのだ」と感じることが、体験そのものをより深く記憶に残してくれるのだと思います。こうした感覚は、AIが持たない「経験や体験」につながるのではないでしょうか。

 もちろん、VRやタブレットには大きな意味があります。遠くに住んでいて西表島に行けない人でも、映像やデジタル教材を通して自然について学ぶことができます。また、現地に行く前の事前学習として使えば、実際に見たときの理解を深めることにもつながります。

 今回の西表島での体験は、デジタル技術と直接体験の違いを考えるよい機会になりました。VRやタブレットで自然を学ぶことも大切です。しかし、時間をかけてその場所へ行き、砂に触れ、風を感じ、生き物を探す経験もまた、教育にとって重要だと思います。現地に行くということは、単に情報を得ることではありません。その場所へ向かう時間を含めて、自分の経験として積み重ねていくものなのだと思います。


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岡本 英通(おかもと ひでみち)
1993年生まれ
岐阜県内の公立小・中学校(数学科)を通算で4年間、教諭として勤務
2018年 岐阜大学大学院 教育学研究科総合教科教育専攻 サイエンスコース 数学(修士課程)修了
2023年 カールスルーエ教育大学(原文: Padagogische Hochschule Karlsruhe, ドイツ) 自然社会科学数学科後期課程修了
2023年 博士(哲学)カールスルーエ教育大学
現 職 学校法人大垣総合学園 大垣女子短期大学幼児教育学科 講師
    京都府立医科大学 生命基礎数理学 研修員
専 攻 数学教育学,創造性・創造的思考,遠隔協働学習


※Padagogische Hochschule Karlsruheの“Padagogische”のはじめのaは上部に‥がついたもの。文字化けを避けるためこの表記にしております。


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