授業力をみがく
ドイツのある州におけるAIプロジェクト
大垣女子短期大学 幼児教育学科 講師 岡本 英通
2026年3月にドイツで行われた年に一度の数学教育学会に参加をしました。今年は、ドイツ国内の数学教育に研究者が約700人集まり、1週間かけて様々な発表やシンポジウムが開催されました。そこでもやはり、「AI」というワードが多く見られました。私自身もAI研究をしているので、そこでたくさんの議論をしてきました。そんな中で、ドイツのある州におけるAIプロジェクトが面白いと感じたので、皆さんにご紹介できたらと思っております。
まず、ドイツは州ごとにかなりの権限を与えられています。ある州では小学校を4年間で、別の州では6年間で、というように変えることができるほどです。(※多くの州は小学校を4年間としています。)そうしたこともあり、以前ご紹介したカナダの政府が作成した教育用AIなどは今のところドイツにはないそうですが、各州で様々なAIを教育活用する実践がドイツでは進んでいます。
今回ご紹介するのは、ノルトライン=ヴェストファーレン州(Nordrhein-Westfalen, NRW)のAI教育活用プロジェクト(KIMADU)です。これは、学校教育でAIをどう使えば学びに役立つのかを調べるドイツの研究プロジェクトです。数学とドイツ語の授業を対象に、ノルトライン=ヴェストファーレン州の25校と連携し、約12,000人の児童生徒が参加する形で、AIを学習者のパートナーや支援者として活用する方法を、学校現場と大学が協力して開発・検証しています。教師の研修や授業実践、振り返りまで含めて進めている点が大きな特徴です。教育現場の教員にどんなAIのシステム設計がよいかということを、研究者が随時確認と調整をしながら理想のAIを作成します。そして、それを実際にうまく子どもが使えるのかを、学校現場で検証するというものです。
次のURL( https://kimadu.de/ )に飛んでいただき、少し下へスクロールしてもらいますと、画像にあるように、すでに開発された数学とドイツ語の学習支援・教員支援のAIが無料で公開されています。

※画像はGoogle翻訳で翻訳されたサイトページのスクリーンショットです。本来はドイツ語で書かれています。
この画像にある「数学のための教育用エージェントと付属教材」をクリックしていただくと、下の方に、目的に合ったAIエージェントを選べるようになっています。

※画像はGoogle翻訳で翻訳されたサイトページのスクリーンショットです。本来はドイツ語で書かれています。
ここを見ると、AIエージェントの役割が書かれています。試験の問題を作ってくれる教員向けAIエージェントも右上に見られます。ほかにも、左下には見えにくいのですが、連立一次方程式を解く支援をしてくれるAIエージェントは3種類のタイプがあるとなっています。それらは「等式処理トレーナー」、「加算処理トレーナー」、「代入処理トレーナー」と連立一次方程式の解き方に分けてタイプ選択ができるようにしてあります。
実際に使いたいという場合は、それらのエージェントがどのようにプロンプトを入れるとよいかが無料で公開されています。例えば、「加算処理トレーナー」の場合を見てみますと、原文はドイツ語ですが日本語に訳すと以下のようになっています。
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#役割
あなたは忍耐強く、生徒のやる気を引き出す数学の家庭教師で、連立一次方程式を解くための加算法に特化しています。他の解法(代入法、消去法、グラフ法など)は全く知らず、加算法しか知りません。あなたは生徒に「あなた」と呼びかけ、常に励まし続けます。
#タスク
最初のやり取りは、問題(6x−5y=9、4x−7y=−5)を用いて足し算の方法を説明し、生徒を段階的に指導することから始めましょう。直接的な解答や完全な解答手順は決して示さないでください。生徒が助けを求めたり、解答について質問したりした場合は、次のステップのヒントだけを与え、解答を解いてはいけません。最初の問題が終わったら、生徒の要求なしに徐々に難易度が上がる練習問題をさらに提供し、生徒の解答が正しいかどうかを確認してください。生徒には常に、何が期待されているのか、次のステップは何なのかを明確に伝えましょう。
#コンテクスト
あなたは総合高校の9年生の生徒たちの数学の授業を担当します。生徒たちは現在、連立一次方程式について学習しており、特に加法法を理解し応用することが求められています。あなたは学習促進者として、学習プロセスをサポートしますが、生徒の代わりに考えることはありません。
#出力形式
年齢に合った、意欲を高めるような言葉遣いを、短めから中程度の長さで分かりやすい文章で使いましょう。回答は段落分けをして明確に構成しましょう。具体的な手順を段階的に説明し、解答過程は示さないようにしましょう。間違いがあった場合は、まず生徒自身に間違いを見つけさせ、それから指摘しましょう。課題と期待を明確に伝え、励ましの言葉を使いましょう。
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このように、AIは役割や問題(タスク)、どんな場面で使われるのか(コンテクスト)、出力形式を与えられるとより私たちの意図を汲んで動いてくれます。これらの記述された内容は、ドイツの研究者が学校現場で使ってみた経験と教員たちとの議論を通し、何回もフィードバックして修正されたものです。
もちろん、このプロンプトをもとに教師は自分なりに変更することで、より自分が教える子どもに合うものを自ら開発することもできます。
このプロジェクトの根幹は、AIが教育をサポートすることであり、AIが完全に教師の代替となるために行っているものではありません。むしろ、AIを使い、より子どもたちや教員の能力を向上させようとしています。しかもそうしたノウハウや研究成果を無料で惜しみなく提供していることに、私は価値を感じてます。
現在このような取り組みを私もできたら……と考えております。興味がある方はぜひご連絡いただけますと幸いです。
「AIをどう教育現場に活かしていくのか」それとも「AIとは隔絶された環境を提供するのが教育現場なのか」
日々迷いながらもAI研究をしている今日この頃です。
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岡本 英通(おかもと ひでみち)
1993年生まれ
岐阜県内の公立小・中学校(数学科)を通算で4年間、教諭として勤務
2018年 岐阜大学大学院 教育学研究科総合教科教育専攻 サイエンスコース 数学(修士課程)修了
2023年 カールスルーエ教育大学(原文: Padagogische Hochschule Karlsruhe, ドイツ) 自然社会科学数学科後期課程修了
2023年 博士(哲学)カールスルーエ教育大学
現 職 学校法人大垣総合学園 大垣女子短期大学幼児教育学科 講師
京都府立医科大学 生命基礎数理学 研修員
専 攻 数学教育学,創造性・創造的思考,遠隔協働学習
※Padagogische Hochschule Karlsruheの“Padagogische”のはじめのaは上部に‥がついたもの。文字化けを避けるためこの表記にしております。
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