授業力をみがく
ゲッチンゲン大学 数学教室(研究所)
岐阜大学教育学部 准教授 河崎 哲嗣
しばらくドイツに滞在したいのであれば、割高なホテル住まいではなく、貸家・貸部屋で自炊・家事をしながら日々暮らすのも、海外生活を満喫できて楽しいものです。おおよそ、衣食住に必要な道具類は設置されていて不便はありません。EDEKA(エデカ)を代表とする小売りのディスカウントスーパーマーケットが点在し、日用雑貨も含めて事足ります。
全国的に展開する百貨店デパートのGaleria Kaufhof (ガレリア カウフホーフ)やベルリンの老舗デパートのKaDeWe(カデベ)に立ち寄った際に、ちょっとしたお土産や自分へのご褒美などを物色するのも良いかと思います。日本のデパートの構造と一緒で、最上階にグルメコーナーの店が並び、地下は食料品・雑貨売り場となっていて、時間をかけて見学すれば楽しい一時を過ごせます。学生や先生達に手頃なお土産を求めて探し歩くと、写真のような文具を見つけました。値段はおよそ4ユーロですから、500円程度です。かさばる荷物にもなりませんので、ドイツに訪れた際にはぜひ探してみてはいかがでしょうか。

関数定規(度数法と弧度法)

分度器と三角定規
さて、ゲッチンゲン大学の数学教室(研究所)を紹介する前に、今日の算数・数学教育に多大な功績を残している2人の数学者、ヒルベルトとクラインの功績について簡単に説明しましょう。ヒルベルトは、ユークリッド幾何学の厳密な再構成を行い、結合・順序・合同・平行線・連続性の5つの公理を示し、ユークリッド空間の構造をよりよく捉えるために分かりやすく整理をしたといえます。クラインは算術・代数と初等幾何学の両者に、関数的な考えの融合を提言しました。例えば、1次方程式や2次不等式の解の様子を代数的な処理で解を考える以外に、今では当たり前な「関数のグラフ」を利用して解くことなどがそうです。幾何学はどうあるべきかを「エアランゲン・プログラム」に示し、数学教育の改造運動に力を注ぎました。当時も今と変わらぬ教員養成や教育の役割を「数学者の養成のための数学であってはならない」とし、子ども自ら学び喜びを知るなどの視点が重要視されたのでしょう。

ゲッチンゲン大学数学研究所と入口付近の一様双曲面の置物
数学研究所に行きますと、入り口付近で一葉双曲面の立体に出会いました。『ようこそ、数学の世界へ』という雰囲気ですね。式で表すと、 x^2/a^2 + y^2/b^2 − z^2/c^2 = 1 となります。学校で学ぶ数学に当てはめますと、その置物が a=b となる形でしたので、水平面による断面図は「円」(a≠b ならば楕円)になりますし、鉛直方向の平面による断面図は「双曲線」になります。式に平面 z=2c (c≠0) を代入すると「円」の方程式、平面 y=2b (b≠0) を代入すると「双曲線」の方程式になるのです。つまり高校3年生で学ぶ2次曲線です。
扉を開けて部屋に入るとヒルベルトの胸像が目に付き、その他いろいろな数学の教具とでも申しますか、造形物や骨董品がホールいっぱいに展示されています。これがゲッチンゲン・コレクションです。

ゲッチンゲンコレクションの一部

(左)メビウスの輪 | (右)クラインの壺
位相幾何学領域の2つの展示物――メビウスの輪、クラインの壺は、ドイツの数学者達の名前に由来しています。「輪」を3次元で考えたら「壺」のように表現したと見ればよいでしょう。
階下には大講義室があり、黒板に向かって左にクライン、右にヒルベルトの肖像画がかけられています。19世紀後期から世界の中枢を担っていた数学研究所には、功績を今に残している多くの数学者が学び研究成果を上げています。館内を歩けば奥深い出物を見つけることができるかもしれません。

大講義室
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河崎哲嗣(かわさき てつし)
1964年生まれ
数学科教諭として、23年間京都府立高等学校・京都教育大学附属高等学校に勤務
2002年 京都教育大学大学院教育学研究科(修士課程)修了
2016年 大阪大学人間科学研究科博士後期課程修了
2016年 博士(人間科学)大阪大学
現 職 東海国立大学機構 岐阜大学教育学部准教授
専 攻 数学教育学,教育工学,国際遠隔協働学習,STEAM
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