授業力をみがく
「学力」が伸長する理科実験を考える
比治山大学現代文化学部 教授 鹿江 宏明
前号では,体験だけでは理解が進まないことをお伝えしました。今回は,学力を伸ばす授業について考えたいと思います。
最初に,「学力」には広義もあれば狭義もありますので,ここではシンプルに「定期テストの点が上がる」ことと限定します。前々号では自分自身の失敗事例として,毎時間授業で実験に取り組んでもテストの点が伸びなかったことを話題にしました。その原因は,体験と思考が結びついていなかったことにあります。
では,どうすれば体験と思考が結びつくのでしょう? ここで私がとった作戦は,「ちょっと不親切な教師になる」ことでした。これまで,授業で実験をするときは時間短縮をしようと,各班ごとに実験道具をカゴに入れ用意周到にしていましたが,そのうち,これは生徒の思考する機会を減らしていないか・・と考えるようになりました。今思えば,教師が準備をすればするほど,生徒は実験に対して「料理」のような感覚で「レシピ」通りに「作業」をするようになっていたのでは・と反省しています。
そこで,そのような準備を徐々に減らし,なるべく生徒自身に実験の準備をするよう促しました。最初は時間もかかりイライラするのですが,ここは口を出さず,笑顔でぐっとこらえてがまんを続けます。すると,生徒は次第に慣れてきて,少しずつ自分で実験目的を意識し,お互いに相談しながら実験の準備を始めるようになりました。回を重ねていくと,教科書を見て実験道具を確認する回数も減ってきました。時には,教科書にない道具を使いながら,自分たちで工夫して実験を進める姿もみられました。ここまでくれば,しめたものです。
以前の生徒は,自分たちの実験結果を「成功した」「失敗した」ぐらいのとらえ方しかしませんでしたが,自分で準備をするようになると,「実験方法は適切だったのだろうか?」「なぜ,自分たちの結果は他の班と違ったのだろう?」などと考え始めるようになります。時には,班の活動中に教師が口をはさもうとすると「先生は黙っていてください!」などと生徒に叱られます。
この「自分たちで解決したい!」という生徒の姿は,推理小説のネタバレを拒む気持ちにも似ています。やがて,生徒集団の変化とともに,定期テストの得点は格段に上がりました。生徒たちは,まさに「主体的・対話的で深い学び」を自分たちで進めていたように感じます。
もちろん,生徒の状況は様々ですので,どのクラスでも通用する訳ではありません。でも,私たち教師は時々立ち止まり,自分の取り組みを「やりすぎてはいないか?」と確認することも大切であることを,生徒に教えてもらったように思います。教師の過度な手立ては,生徒が伸長する機会を奪うこともある・と痛感したできごとでした。
[今回の写真]
水を入れたバットに砂を流し込んで,土砂の広がり方を調べようとする生徒
(現行1年の教科書にもある図示実験は,この生徒たちの試行錯誤から生まれました)
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鹿江 宏明(かのえ ひろあき) 博士(教育学)
1963年生まれ
中学校理科教諭として23年間広島県・市の公立中学校、広島大学附属東雲中学校に勤務
1989年 広島大学大学院学校教育研究科(修士課程)修了
2009年 広島大学大学院教育学研究科博士課程後期修了
現 職 比治山大学現代文化学部 教授
活 動 教員養成のほか、科学館のサイエンスショーや科学講座、NPO法人学修デザイナー協会理事長、一般社団法人日本アマチュアオーケストラ連盟理事など、幅広く活動している。
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