中学生エデュフル

授業力をみがく

体験や経験は理解を促すか(2)

理科 全学年 2023/4/25

比治山大学現代文化学部 教授 鹿江 宏明

(前回の内容はコチラ)

 前回は、思考活動が伴わない観察や実験は、生徒の理解を促すのが難しいことをお伝えしました。今回は、別の切り口から考えてみたいと思います。

 生徒は、これまでの人生の中で何度となく、「夕方、西の空に見える三日月」を見ています。ところが、その三日月を正しく描けますか・・と生徒に問うと、難しいなと悩んでしまいます。これまで体験しているはずなのに、なぜでしょう? この問いの答えは、「夕方、西の空に見える三日月は、右下が光った三日月の形をしている」です。理由として「月は太陽の光を反射している」に気づくことができれば、月から見て右下、夕日の方向に三日月が光っていると答えることができます。「月の光り方」(知識)と「自分が見た三日月」(体験)を関連づけることで、理解を深め納得することができます。

 先日、中学校の授業で生徒に前述のような月の満ち欠けを話題にしました。すると数日後、複数の生徒から「月の形」情報が届きました。話を聞いてみると、ある生徒がアニメ映画(「○○の刃 ○○列車編」)のオープニングに引っかかった・・とのこと。主人公たちが夕刻、列車に乗車してしばらくすると画面に月が現れるのですが、「どう見ても明け方の月だ!」と気づいたようです。また、別の生徒はアニメ映画「となりの○○○」で、「主人公の引っ越し当日の月の形(よいの三日月)が、話の展開とともに満月へと形が変わり、びっくりした」とのこと。皆さんが知っているアニメに登場する月の形はいかがでしょうか。

 もう一つの例です。私たちは夏、暑いことを毎年体験していますが、「なぜ暑いのですか?」と問うと、多くの生徒は「太陽の出ている時間が長いから」と答えてしまいます。でも、夏に最も太陽が長く出ている場所は北極ですね・・。これも、体験と知識が結びついていない一つの例ではないかと考えます。

 体験から理解を促すには、体験と知識を適切に結びつけ、納得することが重要と考えます。私たち理科教師は、生徒の生活体験や観察・実験による体験と科学的な知識とを結びつける「コーディネーター」の役割を担っている・・と考えています。

[今回の写真]
湯と水を用いた前線のモデル実験。
動きを遅くするために、水と湯には同量の高分子吸収剤を加えている。


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鹿江 宏明(かのえ ひろあき) 博士(教育学)
1963年生まれ
中学校理科教諭として23年間広島県・市の公立中学校、広島大学附属東雲中学校に勤務
1989年 広島大学大学院学校教育研究科(修士課程)修了
2009年 広島大学大学院教育学研究科博士課程後期修了
現 職 比治山大学現代文化学部 教授
活 動 教員養成のほか、科学館のサイエンスショーや科学講座、NPO法人学修デザイナー協会理事長、一般社団法人日本アマチュアオーケストラ連盟理事など、幅広く活動している。

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