中学生エデュフル

授業力をみがく

体験や経験は理解を促すか(1)

理科 全学年 2023/2/21

比治山大学現代文化学部 教授 鹿江 宏明

(前回の内容はコチラ)

 体験すると理解が深まる・・・一般に、よく耳にします。私自身、生徒の科学的な体験を増やして理解を促そうと、これまで授業中に少しでも多く観察や実験を実施し、生徒からも「面白い」「わかった」との声を聞いてきました。
 でも、本当に体験することで理解は深まっているのでしょうか?

 初任の頃、観察や実験がない理科はつまらない、楽しくないと考え、年間を通してほぼ毎時間、授業で観察や実験を実施したことがあります。準備や片付けは大変ですが、1クラス10班分の実験道具をかごに入れ、3・4クラス分、前日遅くまで丁寧に準備をしていました。すると、「理科は苦手」と思う生徒たちも観察や実験に意欲的に取り組み、理科を好きな教科のひとつにあげるようになりました。何よりも私自身、毎日準備をしながら、授業で生徒たちがどのように反応するか、教材で勝負するのが楽しみでした。

 ところが定期試験になると、自分が担当する学級の生徒は成績が思うように伸びません。生徒はこんなに理科好きなのに、なぜ?? その答えを見つけるまでに、ずいぶんと時間がかかってしまいました。おそらく私の理科授業は、生徒にとって観察や実験が「思考」する場にならず、楽しい「作業」や「ショー」になっていたのでは・・? 今でも思い出すたびに反省しきり・・です。

 一般に、生徒に「実験は好きですか?」と問いかけると、多くの生徒は「好き」と答えるでしょう。でも、「実験から規則性・法則性を導くことは好きですか?」とたずねると、生徒の肯定的回答は減ってしまいます。これは、生徒にとって実験という「活動」そのものが好きなのであって、「思考」することへの面白さが見出せていないことと思います。でも、本来の実験目的は、自分が考えた予想や仮説を検証していく後者なのですが・・。

 また、生徒はよく、教科書通りの実験結果がでないと「失敗した」と言います。私も初任の頃は、教科書通りの結果にならないと「困ったな・・」と思っていました。でも、「思考」する授業を目指すようになってからは、教科書通りの結果にならないとき「しめた!」と考えるようになりました。生徒は予定外の結果が出ると、「なぜ、自分たちの結果は教科書通りにならなかったのだろう?」と思います。このチャンスをつかむことができれば、ここから思考を深め、納得へと導く展開を組み立てることができます。実験の結果から原因を推測していく学習活動も、生徒が思考を深め、納得する授業のヒントとなります。

川岸の泥の中へアクリルパイプを差し込んでボーリング調査をする生徒

取り出したコア 砂と泥の層がみられる(広島市 猿候川)


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鹿江 宏明(かのえ ひろあき) 博士(教育学)
1963年生まれ
中学校理科教諭として23年間広島県・市の公立中学校、広島大学附属東雲中学校に勤務
1989年 広島大学大学院学校教育研究科(修士課程)修了
2009年 広島大学大学院教育学研究科博士課程後期修了
現 職 比治山大学現代文化学部 教授
活 動 教員養成のほか、科学館のサイエンスショーや科学講座、NPO法人学修デザイナー協会理事長、一般社団法人日本アマチュアオーケストラ連盟理事など、幅広く活動している。

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