授業力をみがく
ゲッチンゲンのマックス・プランク研究所を訪れて
岐阜大学教育学部 准教授 河崎 哲嗣
皆さん、日々お元気ですか? 年末年始は寒い日が続きます。風邪をひかないようにホットワインでも飲んで身体を温めてください。
日本のクリスマスの催しといえば、12月24日、25日のイメージですが、本場ドイツでは12月初旬からクリスマス気分に入ります。クリスマスまでの日にちをカウントダウンする、ドイツ発祥の「アドベントカレンダー」を友人が送ってくれたことがありました。そのときは「アドベントカレンダー」というものを知らず、ビンゴゲームかなと全く意味を理解せず適当に穴をあけて遊んでしまいましたが…。
ドイツといえば、アドベントカレンダーよりもビールというイメージを持つ方が多いでしょうね。折角ですからドイツのビールグラスについて紹介いたしましょう。写真の左から2つ目3つ目の独特なスタイルが標準で、0.4Lと0.5Lサイズ。右端のジョッキは1Lサイズです。グラスには目盛りが記載されています。店で働く人達はこの目盛りにピッタリとビールを注がなければなりません。(※泡の部分を除いて)
苦労して国内でグラスを手に入れたのに、自宅では「割箸立て」になっております。ジョッキの方は友人からのプレゼントです。ちょうどバイエルン州から帰国する時期が「オクトーバーフェスト」と重なったこともあり、気を利かした友人が記念にとこのジョッキに1L缶ビールを差し込ませた商品をお土産にくれたのです。トランクが重量オーバーにならないかヒヤヒヤしたものです。ビアホールではこれ位のサイズで一杯1000円程度でしょうか。

ビールジョッキとグラス
さて、ビールグラスの話はこれくらいにしておきましょう。今回も引き続き、ゲッチンゲンのお話をしたいと思います。
ゲッチンゲン大学のキャンパスには、世界最高峰の素晴らしい研究所がいくつもあります。コロナウイルス騒動で時々名前が登場するマックス・プランク研究所もその1つです。今では生物・医学・数学・物理学・化学・工学・精神科学・社会学・人間科学分野の多岐にわたって、ドイツ国内全域に点在しています。マックス・プランク自身は、光の赤外線のような放射エネルギーに関する法則を発見したノーベル賞受賞者です。
マックス・プランクと聞くと、学生時分を思い出します。琵琶湖の表面部分(水中5cm〜水上5cm部分)を10層程度に分け、1時間おきに72時間連続のデータを取り込むミッションが私に与えられました。半導体を物色するために京都の寺町電気街に足繁く通い、サーミスタ(温度を電気抵抗値のデータに換算する)という熱電素子を用いてデータを取り込む装置を作りました。本来の研究は、奥琵琶湖の山頂から赤外線カメラを設置して、琵琶湖の湖面温度の変化のデータを集積分析することだったのですが、そのハイテク機器に表れる温度がどうやら怪しくないかと。果たして実際の琵琶湖のどこの層の温度を捉えているのかを疑ってみないかという展開になったのです。理論上、近距離であれば水中3μm程度の部分を捉えていることは分かっていました。しかし琵琶湖から赤外線カメラに届くまでの遠い距離の間、空気中では水蒸気などの粒子による光の屈折・反射・散乱が起こるため、熱エネルギーの補正が必要となります。そのモデル式を考え直す必要になり、そのときに「プランク定数」が登場したわけです。「山頂から定点観測をしておくから、お前はボートから実際の温度を測って来い」と言われたのですが、お察しの通り言われた側は大変です。3日間一度も陸にあげてもらえず、ボートから放り出されないように欄干と自分の腕をロープで繋ぎ止め、1時間おきに可能な限りの種類のデータ集めに身体を張りました。なかなか忘れられない思い出です。

(左)ゲッチンゲンのマックス・プランク研究所 (右)生誕150年記念貨幣と切手
そんな出来事を思い出す名がついた、マックス・プランク研究所。それがまさかゲッチンゲンにあって、プランクの墓までゲッチンゲンにあるとは思いもつかない縁です。ちなみに、ゲッチンゲンに訪れた一行が数学関係者だけでしたので、技術科の教員免許の保有や理科教育に嗜んでいる私だけが喜び小躍りしていました。
このような現象は、ドイツの他の大学でも起きました。ヘルツと聞いて周波数の単位と理解できない人は少ないと思いますが、キルヒホッフと聞いて物理の電気回路の法則に理解が及ばないのです。
高校に理数探究という新しい融合科目ができたように、数学の免許以外に他教科の免許も持った教員がこれから求められる時代となるでしょう。数学がどのようにサイエンスの発展や日常生活に役に立っているのか、実際に経験をした人でないと1人で融合教科は教えられないだろうと思った次第です。

カールスルーエ工科大学キャンパス内のヘルツ研究室

(左)ハイデルベルク市街地の大学施設前自宅 (右)キルヒホッフのプレート
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河崎哲嗣(かわさき てつし)
1964年生まれ
数学科教諭として、23年間京都府立高等学校・京都教育大学附属高等学校に勤務
2002年 京都教育大学大学院教育学研究科(修士課程)修了
2016年 大阪大学人間科学研究科博士後期課程修了
2016年 博士(人間科学)大阪大学
現 職 東海国立大学機構 岐阜大学教育学部准教授
専 攻 数学教育学,教育工学,国際遠隔協働学習,STEAM
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