授業力をみがく
授業をデザインする(7)学力につながるノートとは?
比治山大学現代文化学部 教授 鹿江 宏明
中学校の理科教員を23年間勤めましたが,その間,多くの生徒たちと出会い,個性豊かなノートを見てきました。今回はその中のいくつかを思い出しながら,ノート指導の在り方を考えてみたいと思います。
1 美しく記録されたノート
授業中の板書をもらさずノートに記録し,色ペンを使い分けて美しいノートを追究する生徒がいました。授業者である私の板書計画よりも細かく記録されているので,試験期間になると「ノート提出」で当該生徒のノートを見ながら,私が作成したテストが授業内容と合致しているか確認をしていました。
2 隙間のないノート
授業内容は適切に記録されているのですが,隙間なく書いているので1時間の記録がノートの1/4ページ以下になっていて,1年間たっても一冊のノートの半分以下しか進まない生徒がいました。3年間で一冊使うつもり?と指導をすることもありましたが,気にせずマイペースに使い続けていました。
3 自分の考えを書かないノート
授業中に仮説を立てたり予想をしたりする場面で,ノートに書くよう生徒に指示をするのですが,自分の考えを書かず結果だけを書く生徒がいました。仮説・予想・話し合いの間,まったくノートは進みませんが,話し合いの結論が出たり,実験結果が出たりしたときだけ記録をとるので,超絶コンパクトなノートになっていました。
4 自由度の高いノート
板書は黒板の左上から右下に向かっているのですが,ノートの記録が順不同の自由自在で,メモを矢印でつなぐ生徒でした。ノート提出時に内容を確認しようとしても理解が難しいので生徒に説明を求めると,「そのときは理解していたけど時間がたつとわからない・・」とのこと。カオスなノートを挟んでお互いに頭を抱えていました。
ノートの役割は,授業記録と自分との対話の2点にあると考えます。自分の考えの変容が記録として残っていれば,授業内容を思い出しながら成長を実感することができます。また,授業中にノートを使いながら自分の考えを整理するとき,ノートは「思考の筆算」の役割を担います。例えば暗算では難しい桁数の足し算も,筆算なら途中経過をメモで残せるので,思考に専念して計算ができます。私たちはノートをとりながら自分と対話をすることで,考えることに集中できます。
生徒にとって,ノート作成は面倒な「作業」と思われがちです。どんなに美しいノートを作成しても,ノート作成を目的とした作業では学力につながりません。何のためにノートを作成するのか時々生徒と一緒に考えながら,ノートの評価方法もあわせて考えたいですね。
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鹿江 宏明(かのえ ひろあき) 博士(教育学)
1963年生まれ
中学校理科教諭として23年間広島県・市の公立中学校、広島大学附属東雲中学校に勤務
1989年 広島大学大学院学校教育研究科(修士課程)修了
2009年 広島大学大学院教育学研究科博士課程後期修了
現 職 比治山大学現代文化学部 教授
活 動 教員養成のほか、科学館のサイエンスショーや科学講座、NPO法人学修デザイナー協会理事長、一般社団法人日本アマチュアオーケストラ連盟理事など、幅広く活動している。
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