授業力をみがく
授業をデザインする(6)ファシリテーターのすすめ
比治山大学現代文化学部 教授 鹿江 宏明
最近,教員研修などで,教師は「ファシリテーター(Facilitator)」としての役割も重要であることをよく聞きます。このファシリテーターとは,どのような役割なのでしょうか?
ファシリテーターとは,一般に会議などで参加者の発言を促したり,話をまとめたりしながら,話し合いをよりよいゴールへと導く進行役を指します。よく,司会者とファシリテーターとの違いについて話題になりますが,司会をたてた会議の場合,話し合いの流れは会の参加者の発言力に大きく影響を受けます。一方,ファシリテーターをたてた会議の場合は,ファシリテーターが参加者の自発的な発言を促し,意見の対立をコントロールしながら,目標や目的の達成に向けて支援をします。もともとビジネスの研修などで用いられていましたが,最近は学校の授業でも,ファシリテーターの進行による学習場面が重視されるようになってきました。例えば理科授業にあてはめてみると,課題設定や実験計画,実験後の考察などといった話し合いの場面が考えられます。
では,授業でファシリテーターの役割を担うには,どのようなスキルが必要なのでしょうか? 一般に,ファシリテーターに求められるスキルには,ゴールの共有,発言しやすい雰囲気の醸成,合意形成などがあげられます。
まず,ゴールを共有するためには,生徒全員が同じ土俵に立つ必要があります。そのため,ゴール設定の前には既習事項を復習するなど,授業の導入でベースを整えた後に課題や目標を設定することが大切です。このとき,ファシリテーターとして重要なことは,課題や目標を教師が設定するのではなく,「生徒から引き出して」設定することにあります。
また,話し合いを設定したとき,最も難しいことは「発言を促す」ことでしょう。発言がない話し合いは進行が困難です。ここで,生徒のデジタル端末を活用し,発言前に意見を書いたデジタルデータを電子黒板に一覧表示しておくと発言しやすくなります。生徒にとっては,発言前に一度思考を整理する場があり,また,同じ意見や異なる意見が表示されていますので,発言する心理的ハードルも下がります。さらに,「可視化」することにより,発言しやすい雰囲気を醸成するとともに,論点が明確になります。ファシリテーターが黒板やホワイトボード,デジタル端末を使って可視化することで,話し合いが深化され,合意形成へと導く効果的なツールとなるでしょう。
このような,ファシリテーターを中心とした話し合いの場面を生徒が繰り返し経験していると,やがて,生徒自身にもファシリテートする力が育っていきます。例えば授業内で,教師から「○班,これから今日の授業のまとめをお願いします」と生徒に振ることができるようになると,授業がさらに面白くなりますね。このように,生徒が授業に参加するだけでなく,授業を運営する側の役割も担うことができるようになれば,授業全体が必然的に「主体的・対話的で深い学び」へと加速されることと思います。
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鹿江 宏明(かのえ ひろあき) 博士(教育学)
1963年生まれ
中学校理科教諭として23年間広島県・市の公立中学校、広島大学附属東雲中学校に勤務
1989年 広島大学大学院学校教育研究科(修士課程)修了
2009年 広島大学大学院教育学研究科博士課程後期修了
現 職 比治山大学現代文化学部 教授
活 動 教員養成のほか、科学館のサイエンスショーや科学講座、NPO法人学修デザイナー協会理事長、一般社団法人日本アマチュアオーケストラ連盟理事など、幅広く活動している。
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