授業力をみがく
水田の水が透明なのは,水がきれいなよい環境?@
水田の水が透明なのは,水がきれいなよい環境? −身近な水田から始める,生態系と対照実験の授業の提案−
桃山学院大学人間教育学部 特任教授 川真田 早苗
■畦をはさんだ二枚の水田
6月の水田に立つと,妙なことに気づきます。畦を一本はさんだだけの隣り合う二枚の水田で,一方の水は底まで見えるほど透明なのに,もう一方は泥を溶かしたように濁っている。同じ日に,同じ天気の下で,同じように水が張られたのにです(図1)。
生徒にこの写真を見せて,こうたずねてみてください。「どちらが,生き物にとってよい環境だと思いますか」。ほとんどの生徒は,迷わず左の透明な水田を指します。水が透明だと水がきれいなよい環境であると考えているからだと思います。これは,中学生に限らず私たち大人も共有している,きわめて強い考え方です。

図1 畦を隔てて隣り合う二枚の水田(左:透明|右:濁り)
■濁りをつくっているもの
答えは逆です。濁っているほうが,生き物の豊かな水田なのです。
濁った水田の水をすくうと,二枚貝のような殻をもつ数ミリの甲殻類が入っています。カイエビです(図2)。カイエビは殻の隙間から脚を出して泳ぎ回り,泥の表面をかき混ぜて餌を探します。水面へ浮き,底へ潜り,一日じゅう泳ぎ続けます。その結果,泥の粒子は沈む間もなく舞い上がり続け,水は濁ったままになります。同じ水田には,ホウネンエビ(図3)や,掌にのるほど大きなカブトエビ(図4),ゲンゴロウもいました。
一方,透明な水田には,オタマジャクシとタニシくらいしか見当たりませんでした。透明な水田の方は,兼業農家で,効率よく管理するために農薬を使って除草しているとお話しくださいました。
透明な水田では,効率よく管理するために農薬が使われ,濁った水田ではカイエビなどの生き物が泥をかき混ぜていました。水田で除草剤を使うことは,いまではごく一般的なことです。同じように水を張った隣り合う二枚の水田でも,管理のしかたが違えば,そこにくらす生き物の多様性には違いが生まれます。「透明できれいな水がよい環境」という私たちの思い込みは,たった一本の畦をはさんだ二枚の水田によって,静かに揺さぶられるのです。

図2 水を濁らせるカイエビ(殻長約7mm)

図3 ホウネンエビとカイエビ

図4 カブトエビ
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川真田 早苗(かわまた さなえ) 博士(学校教育学)
1964年生まれ
小学校教諭として34年間徳島県の公立中学校に勤務
1986年 徳島学大学教育学部 小学校教員養成課程卒業
2018年 兵庫教育大学大学院連合学校教育学研究科 教科教育実践学専攻(博士後期)課程修了
現 職 桃山学院大学人間教育学部 特任教授
趣 味 砕石ガーデンでも花畑ができるかなと思い立ち庭いじりが趣味となりました。砕石を敷いた庭に,前年度に収穫した数種類の種子を適当に蒔き,砕石の間からどんな種子が発芽するのかをわくわくしながら観察しています。今は,スイートピーが花盛りです。
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