授業力をみがく
子どもができることを大切にした指導(1)
文教大学教育学部 教授
永田 潤一郎
1 子どもの学習状況のとらえ方
全国学力・学習状況調査が始まって早10数年。私たちはその間に蓄積された膨大なデータの分析を通じて,子どもの数学の学びに関する課題を,かなり具体的に把握できるようになりました。しかし,その視線は「報告書」の「〜することに課題がある」という表現が象徴するように,子どもの「できないこと」に向かいがちです。子どもが「できないこと」を「できること」にするのは教師の大切な務めですから,それはそれで意味のあることですが,「あれもできない,これもできない」と,いつの間にか子どもをみる目が否定的になっている自分に気付くことがあります。
こうした繋縛を解き,「現状,何がどこまでできるのだろう?」という視点から子どもの学習の状況をとらえ,今後の指導に活かすことも意味があるのではないでしょうか。ここでは,図形の性質の証明を例に,子どもができることを大切にした指導について考えてみましょう。
2 論理的に考察し表現する能力
図形の性質の証明に関する子どもの学習の状況に課題があることは,多くの先生が指導を通して実感していることでしょう。子どもが証明できるようにするための授業づくりを工夫している先生は多いはずです。しかしその反面,学習指導要領では,「図形」領域の3年間の指導を通じて,「論理的に考察し表現する能力」の育成を目指していることは,あまり知られていないようです。
「『論理的に考察し表現する能力=証明できる能力』だから同じことでは?」と思われるかもしれませんが,あながちそんなことはありません。「論理的に考察する」とは,「根拠を明らかにしながら筋道立てて推論する」ことですから,考察の対象を必ずしも「図形の性質がいつでも成り立つかどうか」だけに限定する必要はありません。例えば,与えられた図形の辺の長さが何cmになるのかや,角の大きさが何度になるのかなどについて,証明した既習の図形の性質などを根拠に説明できる力も,「論理的に考察し表現する能力」と考えることができるのです。
(次回へ続く)
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永田 潤一郎先生
1962年東京都出身。千葉大学大学院教育学研究科数学教育専攻修了後,千葉県内の公立高校・国立中学校に勤務。その後,文部科学省初等中等教育局教育課程課で教科調査官として学習指導要領の改訂や評価規準の作成等を担当すると共に,国立教育政策研究所で教育課程調査官・学力調査官として研究指定校の指導や全国学力・学習状況調査の問題作成及び分析等に取り組んだ。千葉県教育庁指導課教育課程室に勤務後,2012年から現職。
この原稿は,「理数啓林 授業力をみがく」に掲載された内容を一部改変したものです。
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