中学生エデュフル

授業力をみがく

数学的に考えることができる授業の実現に向けて(1)

数学 全学年 2020/6/16

宇都宮大学准教授
牧野 智彦

1 数学的な思考の可視化

 平成29年3月31日,中学校学習指導要領が告示されました。中学校数学科では,「数学的に考える資質・能力」を育成することが目指されています。今回の改訂では,学習者の視点に立って,「何ができるようになるか」という観点から,育成すべき資質・能力が整理されています。このように,これからの数学の授業では,生徒が「数学的に考える」ことができるようになることが要請されているといえます。
 「数学的に考える」ことに関して,これまでも,思考力,判断力,表現力の育成を目指した授業改善が行われ,多くの授業で,数学的に考える機会が設定されてきています。その結果,生徒は数学的に考えることに多く触れてきています。しかし,数学的に考える機会があったとしても,思考自体は頭の中で起こっているので目に見ることはできません。そのため,生徒は「数学的に考えるとはどういうことか」を捉えきれずにいるのではないでしょうか。そこで,数学の授業の中で現れる,数学的な思考を「可視化」する必要があると考えます。思考を可視化することで,思考に注意が向けられるので,いつ,どのように考えるか,考えた結果はどうなるかを意識できるようになります(リチャート,チャーチ,モリソン,2015)。リチャートたちは,思考を可視化する方法として,次の3つを挙げています。
− 問うこと
− 聞くこと
− 記録すること
 「問うこと」「聞くこと」については,まだまだ課題はあるものの,生徒と教師,生徒同士のやり取りとして,授業で比較的行われています。一方,「記録すること」は,不十分と言わざるを得ません。例えば黒板には,授業中の思考や行為の「結果」はよく書かれますが,その結果へ至った「プロセス」は書き留められません。そこで,本稿では,「記録すること」(Documenting)に着目して,数学的に考えることができるようになる授業の実現に向けて,改善の視点を考えたいと思います。

(次回へ続く)


引用・参考文献
・文部科学省(2018).中学校学習指導要領(平成29年告示)解説 数学編.
・リチャート,チャーチ,モリソン(2015).『子どもの思考が見える21のルーチン』(黒上晴夫・小島亜華里訳).北大路書房.(R.Ritchhart,M.Church&K.Morrison,(2011).Making Thinking Visible.John Wiley&Sons.)


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牧野 智彦先生
1973年群馬県みなかみ町出身。群馬大学教育学部数学科,筑波大学大学院修士課程教育研究科,筑波大学大学院博士課程教育学研究科単位取得退学。国立教育政策研究所教育課程研究センター,上武大学を経て,2010年より現職。主な出版物は,『教科教育の理論と授業U:理数編』(大熕・清水美憲編著,分担執筆,協同出版,2012年),『教科教育学シリーズB算数・数学科教育』(藤井斉亮編著,分担執筆,一藝社,2015年)。

この原稿は,「理数啓林 授業力をみがく」に掲載された内容を一部改変したものです。

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