中学生エデュフル

授業力をみがく

読解から表現へ(和訳の扱いと語順表指さし音読)

英語 全学年 2019/12/10

関西大学/大学院 教授 田尻悟郎


 新しい単元・パートの予習として、教科書本文を書き写し、和訳を書いてくるという課題を与える先生がおられるようです。単文であれば和訳は難しくありませんが、中2で複文、中3で後置修飾が入り始めると、和訳はとたんに難しくなります。和訳は英文の意味と構造を理解し、英文自体が味わえるようになってから、その英文の意味やニュアンスを適切な日本語で表すことですから、英語学習のプロセスでは最後に行う活動です。したがって、予習の段階で1文全体和訳を課すと、支離滅裂な日本語になってしまいます。
 英文の意味を理解するためには、英文をセンスグループに分け、1つひとつのセンスグループの意味を取ることができなければなりません。高校の教科書では主語の後置修飾や挿入句などがたくさん出てきますので、どこからどこまでが1つのセンスグループであるかを理解することが求められます。文構造を理解するためには、英文の構造、すなわち語順とその特徴を知ることが必要ですが、それを口頭で説明されて文章化されたものをノートに写しても理解は深まりません。アメリカのNational Training LaboratoriesのLearning Pyramidが示す定着率では、Lectureが5%、Practice Doingが75%ですから、「教える」より「体験させる」ほうがずっと定着します。
 そこで、例えばI study English hard in the library every day because I want to be an English teacher who can answer any questions.という文は、次のように語順表を指さしながら音読させます。(語順表は横書きですが、ここでは縦書きにしています)

『だれ何が/は(S)』 I
『どうする(V)』   study
『だれ何を/に(O)』 English
『どのように』     hard
『どこ』        in the library
『いつ』        every day
『なぜ』        because I want to be an English teacher who can answer any questions.

 ここまで言わせたら、「because以下の部分を拡大」と言って指さし音読をさせます。

『だれ何が/は(S)』 I
『どうする(V)』   want
『だれ何を/に(O)』 to be an English teacher who can answer any questions.

 次に、「to以下の句を拡大」と言います。

『だれ何が/は(S)』 省略
『イコール(V)』   be
『だれ何(C)』    an English teacher who can answer any questions.

 さらに、「an English teacherをさらに詳しく言う部分を拡大」と言います。

『だれ何が/は(S)』 who
『どうする(V)』   can answer
『だれ何を/に(O)』 any questions.

 この文は『なぜ』の部分に従属節があり、その中に不定詞句があり、不定詞句の中に後置修飾があるという構造になっていますので、それを語順表指さし音読させることで実感させるのです。文中の従属節や後置修飾が出るたびに主語に戻って語順表に従い右に流れていき、不定詞句が出るたびに動詞の部分に戻って右に流れていく、この体験が英文構造を理解させ、アウトプットの時にその感覚を応用し始めます。つまり、教科書本文を語順表指さし音読することが、ライティングやスピーキングの際の英文構築力の基礎となるのです。
 私の大学の教養英語(リーディング&ライティング)を受講しているある学生が、他の教養英語(リスニング&スピーキング)の授業でゴールデンウィークにやったことを英語で紹介せよという課題が出たので見てほしいと言って、私の研究室に来ました。彼女が作った英文は以下の5つでした。
 I went to college. I practiced Japanese archery. I had two holidays. So I went to Kyoto. I saw the scenes.

 I went to college.だと「高校を卒業して大学に行った/通った」とも取れること、I had two holidays.だと「世の中は10連休だったのに私は2日だった」とも取れること、I saw the scenes.だと犯罪の場面に遭遇したとも取れることなど、そして何より、せっかく授業で語順表指さし音読を徹底的にやってその効果を感じてくれたのだから、複文にしてみたらと伝えたところ、最終的に彼女は語順表を使って次のような英文に変えました。
 Although I went to the university campus during the golden week holidays to practice Japanese Archery, I was able to have two days off. So I went to Kyoto to do some sightseeing.
 英文の意味と構造が分かるとこんなレベルの英文が書けるようになるんですね、というのが彼女の感想でした。

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田尻悟郎先生
1981年 島根大学教育学部中学校教員養成課程英語科卒業
1981年4月〜 神戸市・島根県の中学校に勤務
2001年10月 (財)語学教育研究所よりパーマー賞受賞
2003年〜 英語教員指導力向上研修講師
2007年〜 関西大学 外国語教育研究機構 教授
2009年〜 関西大学 外国語学部 教授
     関西大学中等部・高等部 校長を兼任
     (2017年4月〜2019年3月)
著書多数,テレビなど多方面で活躍中。

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