中学生エデュフル

授業力をみがく

教科書本文指導の3段階と注意事項

英語 全学年 2020/6/16

関西大学/大学院 教授 田尻悟郎


 語学には「理解」「暗記」「応用」「発展」という段階があります。ターゲットセンテンスならば、まずその意味と文構造を理解し、それを暗記し、応用していくという流れがあります。教科書本文の場合、本文の意味と構造を理解し、暗記し、文の一部の語句を入れ替えて新しい文を作ったり、肯定文・否定文・疑問文・否定疑問文・命令文・付加疑問文・感嘆文に変えたりして応用していきます。ここまでは全て教科書本文の理解、暗記、応用です。発展的な活動とは、その単元が扱っているトピックについて調べ学習したり、プレゼンテーションをしたり、ディスカッションなどをしていくことであり、教科書本文からは離れます。
 入試に対応するためには、「応用」までいかなければなりません。そのためには、教科書の英文を「理解」して「暗記」しなければならないのですが、教科書本文をその都度暗記させておられる先生は少ないようです。しかし、定期テストでは教科書本文の暗記・応用の問題を出しておられることが多く、その結果生徒はテスト直前に試験範囲の英文や語句を一気に詰め込むという学習になってしまっています。これでは全て覚えきれなかったり、試験が終わったら全て吐き出してしまったりという結果になりかねません。
 第6号の「三位一体の音読指導」でご紹介したように、音読は暗記のためにはとても効果的な活動です。普段から生徒に教科書本文音読させ、暗記できるようになってからそれを書いてみて、間違ったり書けなかったりした語句を集中的に練習させれば、試験直前はそれらの復習ですみます。

 さらに、試験1週間前までに試験範囲に到達していれば、試験の直前の週は試験範囲の語句クイズに時間を割くことができます。教師が英語でそれらの語句を定義したり(It’s an adjective. It means something is so good, successful, bad, or shocking, that you don’t think it’s real or possible.=unbelievable)、上の句下の句に分けて、上の句にそれらの語句のヒントを入れ、下の句にその語句を入れるという形式や(The Kintetsu Buffaloes were behind Orix Bluewave by 2-5 at the bottom of the ninth inning, but Kitawgawa Hirotoshi hit a grand slam, “Manrui Homerun” and it gave Kintestu the pennant, which means they became the champion of the Pacific League. It was unbelievable.)、単語の文字数分の下線を引き、綴りをアトランダムに書き入れていき(_ n _ e l _ _ v _ _ _ e)、その語句が何であり、どのページにあったかを当てさせたりします。つまり、どのストーリーのどの辺りに出てきたかを思い出させることで、文脈から意味を思い出させるトレーニングをするのです。
 長文読解では、(1)見た瞬間に意味が分かる語、(2)心の中で音声化することで意味を思い出す語、(3)心の中で音声化できても、意味が思い出せない語、(4)見た記憶がない語の4種類のうち、(1)と(2)を組み合わせて意味を取ろうとします。(1)は何度も見たり書いたりすることで増えます。(2)は繰り返し音読して目と耳に残し、前述のクイズで思い出す経験を積むことで増えていきます。

 「理解」の段階をオールイングリッシュで行うと、生徒は理解できません。日本語は我々の財産であって、それを使うことを否定する必要はありません。日本語を使いながらしっかり理解させ、「暗記」や「応用」、「発展」の段階では英語で指示をし、英語で活動させれば、授業の7〜8割は英語で行うことができます。もちろん、我々英語の教員は「理解」の段階で極力英語を使う努力はしていかなければなりませんし、「理解」の段階でTeacher TalkやOral Introduction, Oral Interactionをたくさん行えば、授業の大半は英語で行うことも可能です。ただ、本当に理解しているかどうかの確認は、日本語で行う方が便利です。
 また最近、教科書本文の意味を取ったあと、そのトピックについてディスカッションするという授業を何度か見ました。ディスカッション自体はいいと思うのですが、教科書本文を「暗記」「応用」することなく、それまでに自分が手に入れた英語の表現だけで行っていましたので、語句は増えていない段階での活動となっており、生徒は伸長感を得ることはなかったと思われます。


*「理解」「暗記」「応用・発展」の活動に関しては、拙著『英語教科書本文活用術!』をご参照ください。


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田尻悟郎先生
1981年 島根大学教育学部中学校教員養成課程英語科卒業
1981年4月〜 神戸市・島根県の中学校に勤務
2001年10月 (財)語学教育研究所よりパーマー賞受賞
2003年〜 英語教員指導力向上研修講師
2007年〜 関西大学 外国語教育研究機構 教授
2009年〜 関西大学 外国語学部 教授
     関西大学中等部・高等部 校長を兼任
     (2017年4月〜2019年3月)
著書多数,テレビなど多方面で活躍中。

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