授業力をみがく
ICTを活用したこれからの理科教育(1)
東京大学 教授 大矢 禎一

図1
1 はじめに
宇宙ステーション(図1)の一室で、朝食を終えた子どもが目の前の画面をタッチすると、1時間目の授業の理科が始まる。するといきなりホログラフィが部屋全体に映し出され、爽やかなそよ風が吹き始め、川辺の植物や昆虫が動き出す。
(声) 「もっと花に近づいて見てごらん。」
(子ども)「わー、こんなところに小さなクモがいた!」
(声) 「めしべの先をルーペで見てごらん。」
(子ども)「小さな粒々が見えるよ。」
(声) 「耳を澄ましてごらん。何が聴こえるかな?」
(子ども)「あっ、近くに鳥がいる!」
、、、、、、、
20XX年、近未来の地球では、こんなICT授業が行われているかもしれません。「ICT とは、「Information and Communication Technology(情報通信技術)」の略で、IT「Information Technology(情報技術)」に「Communication(通信)」が加わった言葉です。
従前のITよりも通信によるコミュニケーションが強調されており、単なる情報処理にとどまらず、ネットワーク通信を利用した双方向の情報通信や知識の共有を重要視しています。スマートフォンやIoT(Internet of Things,モノのインターネット)が普及し、様々なデバイスがネットワークにつながって、手軽に情報の伝達、共有が行える環境ならではの概念です。
わが国では2018年の第3期教育振興基本計画を踏まえて、新学習指導要領実施に向けて、現在各地の学校で教育のICT化に向けた環境整備が進められています。2022年までに、普通教室の無線LAN整備率、超高速インターネット接続率、普通教室の電子黒板整備率をいずれも100%にし、高速でクラウド環境に接続できるようにするのが整備計画の目標です。しかしながら、整備されたICT環境下でどのような授業が可能で、どのような授業をすればICT環境を活かせるのかについての議論はあまり行われてきませんでした。そもそもITとICTの違いは「通信」ですが、デジタル機器の利用がすなわちICTだと誤解されているケースがまだ見受けられます。教員と生徒がICTを活用するパターンを下表に示しましたが、赤字で表したように、無線LANに接続して電子黒板を利用したり、インターネットを利用したりできるのが、ICT活用の醍醐味です。

2 教員が活用するICT
@強調する
教員が授業中にICTを使う際に、間違いなく効果があるのが、図などを大きくズームアップすれば生徒の注意を引けるということです 1)。ここで重要になってくるのは、ズームアップする図のわかりやすさと色合いです。とかくICTの議論ではハード面の話が先行しがちですが、コンテンツ(中身)の方がより重要です。色覚の多様性にも配慮しながら、一目で理解できるわかりやすい図を使うことが大切です。ICT環境が完全に整備されていなくても、実物投影機で紙や実物などのアナログ情報を生徒に示すことはできますが、授業の記録を残すことを考慮すると、PCを使った方が便利です。
A技能の習得、理解を深める
観察・実験の手順を教える際にも、ICT教材はとても有効です。動画は「動作」を表示するので、動きや手順が直感的に理解できるというのが強みの理由です。料理のレシピでも、最近では「Delish Kitchen」などで見られるように、1分くらいの動画で紹介することが主流になってきました。静止画にもよいところはありますが、動画の方が、より生徒を惹きつけるのではないでしょうか。最後に、中学校理科の新しい教科書に掲載される、顕微鏡などの使い方の動画のリンクを載せておきます。ぜひ一度ご覧ください。
B興味を持たせる、理解を深める
「NHK for School」などのストーリー性のある動画を見せることで、そのテーマに対する関心を生徒に持たせ、理解を深めることができます。新しい教科書では、単元導入のページに動画が用意されており、特に効果的です。
【引用・参考文献】
1)「これからの教室」のつくりかた 堀田龍也 ほか。学芸みらい社 2019年
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大矢 禎一(おおや よしかず)(東京大学 教授)
1959年兵庫県宝塚市生まれ。東京大学理学部卒。東京大学大学院理学系研究科博士課程中退。理学博士。東京大学理学部助手、助教授を経て、1999年より東京大学大学院新領域創成科学研究科教授。専門は分子生物学。一般財団法人 理数教育研究所 Rimse 理事。
この原稿は、「学びのとびら」2020年春号に掲載された内容を一部改変したものです。
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