中学生エデュフル

授業力をみがく

英語教育を俯瞰する

英語 全学年 2019/10/23

関西大学/大学院 教授 田尻悟郎


 2020年度から小学校の外国語教育が新しい局面を迎えます。また、2021年度は中学、2022年度は高校の英語教科書がリニューアルされ、新指導要領による英語教育が本格的にスタートします。生徒たちは高校入試や大学入試を突破する力をつけるとともに、多民族・多文化・多言語の中で協調・競争する社会において、職業的・社会的な場面で外国語を用いてコミュニケーションできる力をつけることが求められます。
 小学校学習指導要領外国語編では、英語の単文、肯定・否定の平叙文・命令文、疑問文のうち,be動詞で始まるものや助動詞(can,doなど)で始まるもの,疑問詞(who,what,when,where,why,how)で始まるもの、S+V、S+V+C(Cは名詞・代名詞・形容詞)、S+V+O(Oは名詞・代名詞)、代名詞のうち,I,you,he,she などの基本的なものを含むもの、動名詞や過去形のうち,活用頻度の高い基本的なものを含むものを扱い、日本語と英語の語順の違い等に気付かせるとともに,基本的な表現として,意味のある文脈でのコミュニケーションの中で繰り返し触れることを通して活用することとされています。しかし、50分の授業が週4回ある中学校でもこれらの部分で生徒はつまずき、英語が苦手になっている現状を鑑みれば、中学校の半分も英語の授業時間がない小学校でこれらのことを児童が消化するのは容易ではないと推察されます。
 もちろんそれを期待しなければなりませんが、それができなければならないと考えると小学校の先生方に重圧がかかり、教え込みの授業が展開される可能性が出てきます。そうなると児童は英語学習の楽しさを感じなくなり、結局は学力が向上しないという結果に終わりかねません。ですから小学校では、まずは児童に英語学習の楽しさを感じてもらい、楽しく繰り返すうちに暗記したことが増えたということを目指してはどうでしょうか。
 中学校では英文の構造をきちんと理解させなければなりません。小学校で夢中になって繰り返すうちに覚えてしまった英文の構造が分かり、構造が理解できたからこそ応用できるようになるというのが、小中連携の1つの形だと考えます。中1では単文の語順、中2では複文、中3では名詞の後置修飾が大きなテーマとなります。単文は1層、複文は2層、複文の従属節の中に後置修飾がある場合は3層の構造を持った文となり、この3層構造の習熟度が高校の教科書の英文が消化できるかどうかの基準となります。

 中学校における英語学習でもう1つ大切なポイントは、文の形を変えることができることです。肯定文、否定文、疑問文、否定疑問文、命令文、付加疑問文、感嘆文が作れるためには、語順のみならず、be動詞もしくは助動詞を見つけて主語の前に移動したり、直後にnotを付けたりするなどの操作ができなければなりません。これができれば、高校でSo am I.やNeither do I.などの表現を操れるようになります。しかし、多くの生徒がそれに習熟しておらず、英語によるコミュニケーションを潤滑に行えない一因となっています。
 私は英文構造を18種類に分けていますが、そのうち13種類は中学校で学習します。したがって英文の骨組みを学習するのは中学校だと言えます。中学校では「〜するために」はbecauseかtoしかないのに対して、高校ではso as to, in order to, so that, since, asなど表現が増えます。つまり、高校では肉付けをしていくのが大きなポイントとなり、社会へ出ると場面に応じてその使い分けが求められるようになります。

1.「暗記」の小学校 〜チャンツ、歌、ゲームでの繰り返し〜
2. 英文の骨格(語順)を「理解」し、「暗記」「応用」ができるようになる中学校
3. 多重構造の文を理解して使いこなし、骨格に肉付け(多様な表現)する高等学校

 我が国の初等中等英語教育を俯瞰してみると上のような流れがあり、職業的・社会的な場面で英語が使えるようになるには、やはり中高の英語教育の充実が求められると思われます。


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田尻悟郎先生
1981年 島根大学教育学部中学校教員養成課程英語科卒業
1981年4月〜 神戸市・島根県の中学校に勤務
2001年10月 (財)語学教育研究所よりパーマー賞受賞
2003年〜 英語教員指導力向上研修講師
2007年〜 関西大学 外国語教育研究機構 教授
2009年〜 関西大学 外国語学部 教授
     関西大学中等部・高等部 校長を兼任
     (2017年4月〜2019年3月)
著書多数,テレビなど多方面で活躍中。

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