授業力をみがく
リスニング力と音読指導
関西大学/大学院 教授 田尻悟郎
音読指導には3つの段階があります。
1. 正しく読めるようにする
2. 大量に音読させる
3. 成果を測る
会話では発音や文法が多少間違っても情報の授受ができればよいのですが、教科書等を音読する時は、ネイティブの読みを真似することが大切です。我流の音読をする生徒は、音読を繰り返すたびに間違った音を耳にたたき込むわけであり、それが原因となってネイティブの発音が聞き取れません。したがって、音読指導の第1段階である「正しく読めるようにする」というのはリスニングができるためには必須の条件なのですが、全国各地の中高で授業を見せていただく限り、指導が徹底されていないと思われます。
正しい音読ができるようになるためには、以下のことを知っており、自らの音読に適用できなければなりません。
(1) 文字の音声化
(2) 単語のアクセント
(3) 文中のストレス・ピッチ
(4) イントネーション
(5) 文の区切り
(6) 音の連結
(7) 音の消滅
(8) 音の崩れ
(9) 感情移入
このように音読は複合的な活動ですから、教師やCDについて数度音読をしたあとに自分で練習しなさいと言われてもできない生徒が多いのです。特に、(3)〜(5)、(9)は文の意味と構造、文脈が分かっていなければできないことであり、それゆえに英検の2次試験では短時間での読解力を見るために音読が課されるのです。
(1)は指導要領に「発音と綴りとを関連付けて指導すること」とありますので、長い単語は縦書きし、アルファベットはひらがなやカタカナのように表音文字であることを教えます。例えば小学校のWe Can! で出てくるmineral waterのmineralは音節に分けるとmin・er・alですが、その分け方では生徒は読めませんので、mi・ne・ra・lと4つの部分に分けて縦書きしてやります。フォニックスではcatはc+atに分けrhymingの手法を用いて読み方を教えますので、語尾が“母音+子音”になることが多いのですが、日本語はローマ字表にあるように“子音+母音”でワンセットになりますので、ca+tに分けた方が生徒には分かりやすいのです。
(2)のアクセントの指導も大切です。アクセントを間違うと通じないことがよくありますし、棒読みすると疑問文のように聞こえることがあります。私の場合、アクセントやストレスは、音読しながら手を上下することで確認する「あなたも指揮者」という活動を行いました。2012年に放送されたNHK Eテレの『テレビで基礎英語』では、踏み台昇降を使ってやりましたが、とても楽しかったです。
(6)、(7)の音の連結・消滅もとても大切です。can youは「キャンユー」ではなく、「キャニュー」ですし、in an hourは「伊奈縄」のように聞こえます。また、convenience storeの下線部のように、同じ子音が連続する時は一度しか読みません。[st]が連続する時も同様の現象が起こりますので、Tom must stay with them.は[tɔ́məstéɪwɪðem]と発音します。ネイティブの真似をして音読してこそ、ネイティブと同じ発音が脳に記憶され、リスニングテストでも脳が反応するようになるのです。このように、リスニングができるかどうかは正しい音読がどれだけ脳に記憶されているかが大きく関わってきますので、正しい音読指導は欠かせません。
個々の生徒の音読指導を教師1人で行うことは難しく、私は外字と漢字を使って独自の発音記号を作り、英語の発音に興味を持たせてネイティブ並みの発音ができる生徒を育成し、さらに中1から中2にかけてフォニックスを教えて文字と発音の関係に気づかせ、音読のうまい生徒に友だちの音読を指導してもらうようなシステムを構築していました。
正しく読めるようになったらたっぷり音読をさせますが、最後はその成果を測らなければなりません。音読した結果何ができるようになったかを知ると、生徒は音読の価値を感じるようになります。逆に、それがなければ生徒は音読に対する意欲が続かないのです。
音読に限らず、各活動を何のためにやっているのか、それをすればどんな力がつくのかということを常に示すことが、生徒の英語学習に対する動機付けとなります。
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田尻悟郎先生
1981年 島根大学教育学部中学校教員養成課程英語科卒業
1981年4月〜 神戸市・島根県の中学校に勤務
2001年10月 (財)語学教育研究所よりパーマー賞受賞
2003年〜 英語教員指導力向上研修講師
2007年〜 関西大学 外国語教育研究機構 教授
2009年〜 関西大学 外国語学部 教授
関西大学中等部・高等部 校長を兼任
(2017年4月〜2019年3月)
著書多数,テレビなど多方面で活躍中。
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