授業力をみがく
話すこと(やりとり)の効果的・系統的な指導のあり方
関西大学/大学院 教授 田尻悟郎
新しい指導要領では、4技能のうち「話す」が「発表」と「やりとり」に分けられました。それぞれ「即興で伝え合う」「即興で話す」とあり、prepared speechだけでなくimpromptu speechも行いなさいということです。impromptu speechができる力をどうつけるかは私が中学校教員時代ずっと研究してきたことであり、その結果、私は語順指導に行き着きました。しかし、それは演繹的なアプローチであり、大量に英文をインプットすることで帰納的に英文構造に慣れ親しむことも大切であると思っていました。
そこでOral Methodなどの手法を用いて大量に英文を聞かせたり読ませたりしましたが、そこからライティングやスピーキングに到る時、中位から下位の生徒はインプットした英文をうまく活用することができていませんでしたので、そこから試行錯誤を繰り返し、3号でご紹介した「語順表指さし音読」という帰納法と演繹法を合体させた英文インプットの手法に至りました。結局は語順が分からなければ意味が通る文が作れませんし、インプットの際には内容語を読み取ったり聞き取ったりすることで概要は把握できますが、アウトプットでは機能語も使わなければなりません。語順表指さし音読では、機能語がどのセンスグループに属するかを指さして音読しないといけませんし、指さし音読するうちに英文構造と意味が分かり暗記が容易になります。最初は英文を見ながら語順表を指さして音読しますが、最後は語順表だけを見て英文を暗唱させます。その時に、生徒は「ここって、inだったっけ、それともatだったっけ?」とか、「ここってaやtheがいるっけ?」などと機能語を強く意識するようになります。
私は大学の教養英語の授業でも語順表指さし音読をさせており、学生は多重構造を持つ文を暗記できるようになって喜びますが、3号でご紹介したように、大学生でもアウトプットをさせると単文で表す傾向があります。それを防ぐためには、採点基準がカギとなります。30語以上などと語数で基準を示すのではなく、センスグループを15以上使う、複文や後置修飾には加点するなどの基準を示すと、生徒の作文やスピーチの質が上がります。
私の生徒の中には、impromptu speechの中でI would like many people to know the fact that people need many things and there are many troubles in poor countries.と言った生徒や、I thought raising money is a good way to help them stand (on) their feet.と言った生徒もいました。後者は教科書本文にHe stood on his feet again.という文があったので、それを覚えており、応用してきたのです。これは帰納法と演繹法を上手にミックスした例だと言えると思います。
ライティングに於いては、英文を書いたらそれで終わりではなく、それを暗記するまで音読させます。例えば、修学旅行新聞や職場体験実習などの感想や報告文を書かせたあとは、最終稿をコピーしてやり、最初にストレスが来る語を○で囲ませ、次にイントネーションや区切り、音の連結などに気をつけて大量に音読させ、次にRead & Look Upをさせます。清書までの過程においては教員も手伝っており、それらの英文をまだ生徒は消化していませんので、そこで終わってはいずれ忘れてしまい、スピーキング力向上につながりません。自分で書いて意味と構造が分かっている文章を覚えさせてこそ、学力向上が見られるのです。それがprepared speechのねらいだと思います。
また、チャットやインタビューなどの活動では、やらせっぱなしではスピーキング力は向上しません。私はALTとのティームティーチングの授業では、よくインタビューテストをしました。生徒とALTとのインタビューテストを録画し、そのあと生徒と一緒に映像をチェックして、どこが聞き取れなかったか、どのようなことが言えなかったのか、どう言えばよかったのかなどを検証していました。
このように、prepared speechで語句や表現を増やし、impromptu speechのあとで反省会をすることで、私は生徒のスピーキング力を向上させていきました。
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田尻悟郎先生
1981年 島根大学教育学部中学校教員養成課程英語科卒業
1981年4月〜 神戸市・島根県の中学校に勤務
2001年10月 (財)語学教育研究所よりパーマー賞受賞
2003年〜 英語教員指導力向上研修講師
2007年〜 関西大学 外国語教育研究機構 教授
2009年〜 関西大学 外国語学部 教授
関西大学中等部・高等部 校長を兼任
(2017年4月〜2019年3月)
著書多数,テレビなど多方面で活躍中。
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