授業のワンポイント
科学技術の役割や課題
■科学技術の発展と課題
ここでは,身近な生活の中からテーマを決めて話し合わせ,科学技術と生活の変化や,それによって生じた問題とその解決方法など,科学技術の役割や課題を浮き彫りにすることがねらいです。
テーマには様々なものがありますが,以下では照明を例に挙げて説明します。
●灯明
もとは神仏に供える灯火を指していましたが,しだいに照明として用いられるようになりました。芯にはイグサが,油はハシバミなどの果実からとれたものが使われました。江戸時代からは,菜種油が使われるようになりました。
当時,菜種油は同量の米より高価なものでした。
●和ろうそく
和ろうそくは,とかした木蝋をイグサなどの芯のまわりに繰り返しかけてつくるろうそくです。横断面は年輪状になり,芯は筒状で,中が空洞のため,炎には独特のゆらぎが見られます。芯がろうを吸い上げる速さが速いため,洋ロウソクと比べて,ろうが側面からたれにくく,炎が消えにくい,煙に含まれる炭素量が少ないなどの特長をもっています。こうした特長から,現在も寺院などで利用されていますが,夜間,すみずみまで照らすほどの明るさはありません。
●白熱電球,蛍光灯,LED電球
灯明やろうそくより,明るさをもたらした白熱電球は多くのエネルギーを消費し,エネルギー問題を解消するために開発された蛍光灯は,水銀の処理が問題となりました。さらに少ないエネルギーで明るい光を得ることができるLED(発光ダイオード)を用いた照明へと置き換えが進むとともに,新しい技術である有機ELも使われるようになってきています。

照明器具によるエネルギー消費量の比較
■青色LEDの発明と白色光
赤色,緑色,青色を光の三原色といい,これらの光を混ぜ合わせると,白色光になります。以前から実用化されていた赤色と緑色のLEDに加え,青色のLEDが実用化されたことで,これらの3色のLEDを組み合わせて白色やそのほかの色をつくれるようになりました。これにより,フルカラーの大型ディスプレイなどが実現しました。
なお,白色光を出すLED照明は,3色のLEDを組み合わせるのではなく,青色LEDの発光部の上に塗りつけた黄色の蛍光物質によって青色の光の一部を黄色に変換し,残りの青色の光と合わせることにより,白色に感じるようにつくられています。
■ライフサイクルアセスメント(LCA)
環境影響評価の一種で,1つの製品について,資源採取から廃棄・リサイクルまでの全ての過程を通しての環境影響を定量的,客観的に評価する手法をこのようにいいます。国際標準化機構(ISO)でも,ISO14010シリーズとして規格が決められています。
パソコンを例にとると,原材料である石油や鉱石の採掘,輸入,精製や製錬,部品の加工,製品の組み立て,販売店や消費者への輸送,消費者が使用するときのエネルギー,使用後に販売店へ引き取られてリサイクルされる際のエネルギー,リサイクル部品以外の廃棄処理など,これらの全ての過程がLCAの対象になります。
LCAが用いられる目的としては,各過程に投入されるエネルギーや排出される二酸化炭素などを算出して,環境負荷を測定するためです。ただし,海外での製造段階のデータなど,確定しない要素も多く,環境負荷を正確に評価することは困難です。そのため,製品の絶対的な環境評価を算出するのではなく,環境負荷の多い段階を見つけ,その段階の環境負荷を低減する対策を立てることなどに,LCAを役立てるケースが多くみられます。
ここでは,環境への負荷を考える際に,一面的ではなく,多面的な見方が必要なことに気づかせるきっかけとしたいところです。また,その調査にあたっては,正確な算出方法や正解があるわけではありませんが,多面的な考えを引き出す契機としたいものです。事例としては,次のようなものが考えられます。
・ガラス製のコップと使い捨てのプラスチックコップの比較
(製造,使用後の洗浄も考慮する)
・無洗米と普通米が環境に及ぼす影響
(とぎ汁,無洗米製造時も考慮する)
・家庭菜園で野菜をつくる場合,どの段階が環境に負担をかけているか
■カーボンフットプリント
カーボンフットプリントは,Carbon Footprint of Products(CFP)で,直訳すると,「炭素の足跡」です。原材料の調達から使用を経てリサイクルまでに排出される温室効果ガスの量を二酸化炭素の排出量に換算するしくみです。換算の際,先述のようにLCAの方法が活用されています。
CFPマークを製品やサービスに表示することによって,企業は二酸化炭素をどのくらい削減できているのかを消費者に示すことができます。
[環境]自然と人間
5章 持続可能な社会をめざして(教科書p.302〜309)
アンケート
よろしければ記事についてのご意見をお聞かせください。
Q1またはQ3のいずれか一方はご入力ください。