授業力をみがく
英語科における協働的な学びを引き出す手法
関西大学/大学院 教授 田尻悟郎
研修会で「上位、中位、下位の生徒のうち、どの層に最も注力なさっていますか」と尋ねると、3分の2の先生方が「中位」、3分の1の先生方が「下位」と答えられます。生徒全員ができなければ平等性が保てないと考えられる先生方が多いことが一因とみられ、難しい活動や学習は下位の生徒のことを考えてやらないようにしていると言われる先生が増えたように思います。
しかし、本来はどの層も大切にしなければならないのであって、上位、中位、下位の3層に応じた活動や学習を用意することが大切だと考えます。そのために、私は中学英語の各文法事項に関して、3段階の活動を用意するよう心がけました。
Stage 1:機械的なドリルでもいいので、量を確保する。
Stage 2:知的で楽しいドリル。
Stage 3:応用力を求められる、発展的なドリル。
Stage 1は答えが1つしかないドリルで、教科書準拠のワークブックや市販の問題集を使うとよいでしょう。もちろん先生方が作ったプリントをやってもかまわないのですが、教材は出版の際に何度もチェックしてミスがないようにしてありますので安心です。
Stage 2は「楽しい」、「知的」、「多岐にわたる解答」などがキーワードになる活動で、市販の問題集にはほとんど含まれていません。解答が複数あると、「解答と解説」という冊子が分厚くなってしまうからです。
Stage 3はターゲットとなる表現に加えて既習の表現を駆使した、統合的な活動です。
例えば、不定詞の副詞的用法では、私は次の3つの活動が考えられます。
1. ワークブックなどで不定詞の副詞的用法に慣れる。
2. Why do you study English? や Why do people work? などを友だちと尋ね合う。
3. テレパシーゲームとMade-up storiesを行う。
テレパシーゲームとは、ペアになって一方がSVOの文を、もう一方がto+動詞の原形…をお互いに見えないようにして書きます。書き終わったら一斉に見せ合い、上の句と下の句がつながっていたら、テレパシーで心がつながっていたペアになります。
その後、意味が通る文が書けたペアは黒板の左に、意味が通らない文になってしまったペアは右にその文を書かせます。自席に戻ると、生徒はそれらの英文を読み始め感想を言い合いますので、次にこう言います。
“On the right, there are sentences that don’t make sense. Choose one from them and put some sentences before it so that it makes sense. For example, ‘I play tennis to study English.’ doesn’t make sense. But if you say, ‘I like English very much. I want to study English at home every day. But my parents love tennis. When I get home, they always say to me, “Let’s play tennis.” If I don’t play tennis and study English in my room, they are angry. So I play tennis to study English,’ it makes perfect sense. This is called ‘Made-up stories, 「作り話」.’ First, do the rest of the workbook, then move on to the Stage 2, such as ‘Why do you study English?’ Now you know how to do the Stage 2 activity, don’t you? Write your answers to the questions in your notebook. And memorize those sentences after I correct them. The final activity of Stage 2 is an interview test with the ALT. You can try ‘Made-up stories.’ if you have time, but that’s not a must,”
これが3層に対応した授業となります。習熟度別授業とは、上位と下位の生徒に分けて教室を分け、別の教員が担当するという形式が多いのですが、3段階の活動を用意するのも習熟度別の授業となります。後者の優位性は、Stage 3まで行った生徒がクラスメイトの手伝いをしてくれることです。
1つしか活動を用意していなく、しかもそれが簡単な学習や活動であると、上位層の生徒たちはすぐに終わってしまい、やりがいも感じることなく、先生が下位の生徒を手厚く見ている間暇を持て余しているという状況になります。その上で「終わったら友だちに教えてあげて」と先生に言われると、「教えたら追いつかれてしまう」という心配から積極的になれないことがあります。
一方、かなり高度なStage 3まで行った生徒は心に余裕ができ、友だちを手伝っても追いつかれないだろうという安心感から、友だちを教え始めます。そのうち、教える楽しさを感じてくれたらしめたものです。このような「学習者心理」を把握することも、教師にとって大切なスキルです。
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田尻悟郎先生
1981年 島根大学教育学部中学校教員養成課程英語科卒業
1981年4月〜 神戸市・島根県の中学校に勤務
2001年10月 (財)語学教育研究所よりパーマー賞受賞
2003年〜 英語教員指導力向上研修講師
2007年〜 関西大学 外国語教育研究機構 教授
2009年〜 関西大学 外国語学部 教授
関西大学中等部・高等部 校長を兼任
(2017年4月〜2019年3月)
著書多数,テレビなど多方面で活躍中。
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