中学生エデュフル

授業力をみがく

CLIL(内容言語統合型学習)の視点からの指導改善

英語 全学年 2020/8/18

関西大学/大学院 教授 田尻悟郎


 CLILとはContent and Language Integrated Learning(内容言語統合型学習)の頭文字で、社会科や理科などとの教科横断型外国語学習や、異文化理解、国際問題などのトピックと言語を同時に学習することを意味しています。CLILはContent、Communication、Cognition、CommunityやCultureの4つのCで授業を構成するのが特徴で、その中でもCognition(何かを知り、理解し、習得する過程)が重要視されています。
 私の英語科教育法の授業を受講した学生を対象に実施したアンケートでは、中学英語の問題点として、「ワンパターン」「一方的な解説型の授業で眠かった」「文法説明ばかりで、聞くだけの授業だった」「プラスアルファの情報がなかった」などが、高校英語の問題点としては「教師が一方的に解説・板書する授業」「大学入試対策一辺倒の授業」「教科書本文の内容など無視して、文法ばかり教えられた」「プラスアルファの情報がなかった」「英語の成績がいい人でも、ALTとは全く話せなかった」などが挙げられました。これらの回答からは、彼らの中高時代は「内容」が疎かにされ、「思考」「協働」のない「言語」の学習に終始しており、CLILの理念とは乖離した授業が展開されていたということになります。
 研修会等で先生方に「皆さんの教え子で英語が必要な仕事に就いた人はどれぐらいいますか」や「皆さんが教えておられる生徒さんたちの中で、将来英語が必要な仕事に就くと思われる人は何人ぐらいいますか」と尋ねると、「あまり多くないと思う」という回答が返ってきます。となると、マジョリティの生徒は「英語」からアプローチしても、学習の動機付けはできないことになります。

 私も中学校教員時代、自分は将来英語が必要ではないと思っている生徒が多く、学力が低迷している漁師町の中学校と山間部の中学校に勤務したことがありますが、それらの学校ではまず「楽しい」と「分かる」をテーマに授業を作っていったところ、両校とも中3では女子が食いつき、男子をけしかけてくれるようになりました。彼女たちには英文日記の書き方を教え、英語が使える喜びを味わってもらうと同時に、毎日彼女たちの日記や家庭学習をつぶさに点検し、コメントをつけて返すことで人間関係を作っていきました。そして、「考える」「関わる」「助け合う」ことを次第に浸透させていき、小さな成功体験を積み重ねることで自信を持たせ、英語授業へのinvolvementを上げていきました。
 「楽しい」授業や「深い」授業をすると、生徒は夕食の食卓で英語の授業について語り始めます。すると保護者さんも興味を持ち、授業参観日にたくさんの保護者さんが授業を見に来てくださり、保護者さんとの会話も増えていき、様々な情報をいただきました。生徒が授業を支持してくれると学校が落ち着くということも分かりましたし、保護者の協力も得られることも実感しました。
 最初はfunな活動で惹きつけましたが、そこからinteresting, exciting, eye-opening, inspiring, controversial, moving, achieved, appreciatedなど様々な種類の「楽しさ」を体験させることで、「将来英語は必要ないかも知れないけど、英語の授業は好き」と思ってもらえるよう努めました。
 小学校では社会科(異文化理解や夢の旅行など)や理科(動物分類クイズやThe Odd One Outなど)と絡めた授業では、児童の思考は活発化し、ターゲットとなる表現を繰り返し使ったり、知っている語句で何とか表現しようとしたりします。中学校では、1年時は登場人物の会話が中心ですが、2年からはトピックが中心となり、高校は教科書が総合的な学習のリソースと呼べる内容となっています。私の知る実践家の先生方は30年前からCLILの4Cを統合した授業を行っており、教科書本文のテーマについて深く掘り下げ、周辺情報を集め、生徒の読みたい、聞きたい、言いたい、書きたいという気持ちを引き出し、生徒の英語力を高めてこられました。私は学会や研究会、書籍などでそれらの実践に触れ、自らの授業改善を重ね、生徒からたくさんの感動をもらうことができました。皆さんもぜひ!



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田尻悟郎先生
1981年 島根大学教育学部中学校教員養成課程英語科卒業
1981年4月〜 神戸市・島根県の中学校に勤務
2001年10月 (財)語学教育研究所よりパーマー賞受賞
2003年〜 英語教員指導力向上研修講師
2007年〜 関西大学 外国語教育研究機構 教授
2009年〜 関西大学 外国語学部 教授
     関西大学中等部・高等部 校長を兼任
     (2017年4月〜2019年3月)
著書多数,テレビなど多方面で活躍中。

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