授業力をみがく
英語の小中接続の例
関西大学/大学院 教授 田尻悟郎
小学校の教科書には、今まで中1や中2で扱っていた文法事項が盛り込まれています。しかしながら、それらが定着するだけの十分な時間がありません。したがって、中学校の教科書ではそれらの文法事項を再度学習するよう設定されています。となると、中学校の先生方は小学校でどのような学習や活動がなされているかを知り、学習はしたけれど定着はしていないと考えた上で、小学校でやったものとは異なる活動やレベルが上がった活動を用意するという工夫が求められます。
例えば、小学校では「私の好きなもの」を紹介する活動を行いますが、中学校で今までのようにそれらをインタビューゲームで行うと、生徒は「小学校の時にやった」と思って活動に対する意欲が出てこない可能性があります。そこで中学校では、do you likeはある程度習熟していると考え、“what+名詞”に焦点を当てて活動を行うのも一案です。その際に「whatは名前を知りたいときに使う」ことをすり込んでおくと、What is the capital of Australia?とWhere is the capital of Australia? の違いが分かりやすくなります。
中2になると、I likeの直後に不定詞句や動名詞句を使わせたりすることで、小学校の段階よりもレベルが上がったことを感じさせます。これらは中1で簡単に触れて自己紹介に盛り込むことも可能です。
また、Why (not)? Because …の練習をする際には、小学校で自分の好きなものを紹介した時、どのようなものを挙げたかを思い出させメモさせます。小学校ではそれらが好きな理由をWhy?で尋ね、それに答えるという活動は行っている可能性がありますので、中学校ではそれらが本当は好きなのに好きではないと仮定してその理由を英語で述べさせるという活動をすると、論理的思考力が高まると同時にディベートへの準備となります。
道案内も、小学校では段階を踏んで複数回体験している可能性があります。低学年で英語活動を行っている学校では、福笑いをすることで児童がRight. Left. Up. Down. Stop.を繰り返しています。そこから中学年や高学年でのGo straight (for three blocks). Turn right / left (at the third corner). You can see it on your right / left.などにつなげていきます。中学校ではそれらの表現を長期記憶にとどめるために、あるいは道案内で使用する表現を増やすために再度道案内を行う必要がありますが、その際は外国の都市の地図を使ったり、テーマパークの地図を使ったりすることで臨場感を持たせたり、興味を引き出したりします。最終的には外国人英語指導助手と1対1で地図を用いて内線電話などで道案内をしたり、道案内をしてもらったものをメモして復唱したりするなどの発展的な活動をしてこそ、「職業的・社会的な場面で外国語を用いてコミュニケーションできる力」を身につけることができます。
want toも、小学校で繰り返し練習する表現の1つです。私が10年ほど前に島根県の小学校で見た授業では、箱の中に様々な国旗が入っており、児童はそこから無作為に1枚選んで世界地図の中の適切な場所に貼り、I want to go to (国名). I want to visit (観光地). I want to see … I want to eat …と、その土地の観光地や名物、名産などを言うという社会科との教科横断型の授業を行っておられました。まさにCLILの授業が展開されていたのです。そこで、この児童たちを中学校で担当するとしたらどのような活動をするかを考えました。1つのねらいはwant toを含む疑問文、否定文が使えるようになることで伸びを感じさせること、2つめは知的で楽しい活動を用意してクリエイティビティを伸ばすこととしました。そして思いついたのが、動物の写真を数枚用意し、それらの動物が心の中でつぶやいているであろうwant toを使った文を作らせるという活動です。あちこちの中高で授業をさせていただいた折りにこの活動をやってみましたが、生徒の想像力をかき立てたようで生徒は一生懸命英文を作り、楽しい回答が連続しました。まずは知りたいこと、知ってもらいたいことがあり、それが言語を使う必然性をもたらすことを感じた活動となりました。
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田尻悟郎先生
1981年 島根大学教育学部中学校教員養成課程英語科卒業
1981年4月〜 神戸市・島根県の中学校に勤務
2001年10月 (財)語学教育研究所よりパーマー賞受賞
2003年〜 英語教員指導力向上研修講師
2007年〜 関西大学 外国語教育研究機構 教授
2009年〜 関西大学 外国語学部 教授
関西大学中等部・高等部 校長を兼任
(2017年4月〜2019年3月)
著書多数,テレビなど多方面で活躍中。
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