授業力をみがく
中学校、最初の授業で何をする?
足立区立江北桜中学校 主任教諭 伊藤 智子
1 「ことばで人と関わる楽しさ」を英語の授業で
子どもたちはそれぞれの小学校で、英語に親しみ学んでから中学校に入学してきます。入学してすぐに「英語が好き」と言う生徒もいれば、「ちょっと苦手」「英語できない」など様々な思いをもっている生徒もいます。でも、調査をしてみると9割以上の生徒が「中学校で英語をがんばりたい」と答えます。そんな生徒たちに、中学校進学はもう一度「英語」に出会わせるチャンス。子どもたちがより主体的に学ぶ意欲を持てるよう、日々の授業を作っていかなければと思います。私は「なぜ英語を学ぶか」を、授業を通して生徒自身が考え、自分なりの答えを見つけられることを願って授業を計画しています。教師自身が経験や考えを語ることと併せて、活動を通して英語を使う楽しさや、英語を学んだ先に何があるかを常に示すことで、「ことばで人と関わる楽しさ」を生徒が感じてくれたらと思っています。ここでは導入期に行う、カードを使った活動を2つ紹介します。

2 中学校最初の授業 英単語カルタ
最初の授業では、カルタをします。4月の入学式以来新しい人間関係の中で緊張している生徒たちですが、カルタのようなゲームはシンプルながら心を和ませる効果があるだけでなく、ゲームという状況の中で、まとまりのある多くの英語に、無理なく触れさせることができます。例えば、Open the envelope.と言いながらカードが入った封筒を配り、Spread out the cards.とジェスチャーしながら準備させる等です。生徒たちがどのくらいの英語を理解するかを診断するにもゲームは有効ですし、単に英語を聞くだけでなく聞きとる英語のルールの内容から、教師があたたかい学習集団を作ろうとしていることも、生徒に間接的に伝えられます。読まれる単語はbus, train, trumpet,ribbonなどの日常語にし、取り札にはイラストが描かれているものを用意します。メトロノームに乗せてノンストップで2度ずつ読み上げていきます。
T:Do you like games? Today, we enjoy games. Yeah!
(ここで生徒からYeah!というリアクションがなければもう一度やりなおします。以下ジェスチャーをつけて)
T:Do you know Karuta? You listen to English words. If you know it, take the card. When you touch your friend’s hand, let’s say,“It’s yours.” or “Here you are.” or “Thank you.”We don’t stop. You don’t have time to do
Janken. Now, make the group of four. You,one, two, three, four. Move your desks as a group.
3回戦ほど行い、そのたびにカードを数えさせ、トータルでグループ内のwinnerを決めます。
T:How many cards did you get?
Please count in English.
Who is the winner? Who is the champion?
Ask your friends, “How many cards?”
のように言い、お互いにHow many?と聞き合う場を作ります。その後クラス全体でシェアします。
S: 48枚。
T: Oh, you got forty eight. Great.
生徒は日本語で答えますが、英語で返していきます。各グループの枚数を聞いていく際には、そのやり取りをクラス全体がしっかりと聞くように全体をもってい
くことが肝要だと思います。今後の授業の中で、「人の話を聞く→コメントする」は重要なスキルになるので、そのモデルを示すのがねらいです。
3 間違えてもOK! アルファベットカードで単語作り
音声から文字へ。これは導入期に限らず中学生にとって永遠の大きな関門です。アルファベットが表音文字であることを踏まえ、生徒がそれを体感しながら自分でつかみ取れるように、アルファベットのカードを活用した単語づくりの活動をしています。
T:Let’s make “pen”.
教師は「pen..pen」と何度か繰り返し聞かせる他は、あえて説明しないようにしています。教師が喋ってしまうと、生徒が考える時間を奪うことになるからです。生徒はこれまでに得た知識を生かして、少しずつ「ペ」だからpかな、と言いながら単語を作っていきます。そして、pen,pin,panのように一文字を変えてできる単語を聞かせ、作らせていきます。単語を作ったらご近所と相談。すると、子どもたちは自分の言葉でなぜそうつづるのか、互いに説明できるようになっていくから不思議です。この活動では、教師が説明するより何倍も生徒が考え、話し、関わり合い、学び合います。song,sing,king, thing, think,sink,ink..など、音を頼りにカードの一部を入れ替えて単語を組み立てていきます。文字をノートに書くわけではなくテストが目的でもないので、活動のハードルが下がり、すべての生徒が参加できます。音と文字がだんだんつながり、わかっていく達成感もあります。このアルファベットカードは、授業の冒頭の帯活動で行います。活動の最後は「片付けゲーム」。一人ずつランダムにアルファベットを言い、言われたカードを拾っていきます。「自分から一番遠い席に座っている子に聞こえるように発音しよう」という指示だけ与えます。聞き取れなかったら”Pardon?”。もう一度発音します。「その文字はさっきもう出たよ」は”Done.” 机上のカードがなくなったらみんなで”All done!”。タイムを計ると緊張感とクラスの一体感が出て、大変集中した活動になって満足度があがるだけでなく、学習集団としてのクラスがぐっと仲良くなります。英語の授業では、この「安心して声が出せるクラス、間違ってもOK、助け合える
気風」が一番大切だと思います。それがあれば、この後のどんなペアワークもグループ活動も音読もスムーズになり、子どもたちは集団で学ぶ楽しさと意義を感じられるようになります。「ことばで人と関わる活動」として授業を設計することで、子どもたちが「仲良くなれた」「自分は英語わかる、できる」「英語を学んでよかった」と思い、自信をもってくれたら嬉しいです。

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伊藤 智子(いとう ともこ)(足立区立江北桜中学校 英語科教諭)
オーストラリアで日本語を学ぶ小学生22名が7月に来校し、一日学校体験とホームステイを体験しました。決して英語が得意な生徒ばかりではない本校ですが、相手意識があるリアルなプロジェクトが生徒を成長させました。プレゼントする折り紙や交流会の司会進行、出し物はすべて生徒によるボランティアで工夫し運営。同年代の外国人と初めて接した日豪双方の生徒たちは言語学習の先に世界が広がっていることを体験していました。
この原稿は、「Fun with English」2019年冬号に掲載された内容です。
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