授業力をみがく
三位一体の音読指導
関西大学/大学院 教授 田尻悟郎
音読には2つの目的があります。1つは語句や表現、文を覚えてストックを増やすこと。そしてもう1つがリスニングの点数を上げることです。
私たちは何かを覚えないといけない時、よく無意識に音読を始めます。黙読は脳と目の2カ所を使いますが、筆写は脳と目と手の3カ所、音読は脳と目と口と耳の4カ所を使いますので、暗記のためには音読が効果的であることを体験的に知っているのではないかと思われます。
しかし、私が今までに各地の中高で見た授業では、文字を音声化する(下図@)だけの音読が主流でした。テストでは文字を読んで意味を取ったり(下図B)、音声を聞いて意味を取ったり(下図D)しなければなりません。また、英語を聞いてメモを取る時は、音声を文字化します(下図A)し、意見や感想を書く時は意味を文字化し(下図C)、発言する時は意味を音声化します(下図E)。ですから、「文字、音声、意味」は常に三位一体でなければならないのです。

そこで重要になってくるのが、意味を音声化する音読です。意味を音声化する音読としては、Read & Look Upが挙げられます。短い文は図の@の「文字を音声化する音読」になることがありますが、長くて複雑な文構造を持つ1文をRead & Look Upする時は、文をいくつかのセンスグループに分けて暗記し、それらを英語の語順にしたがって暗唱していかなければならないからです。
センスグループ英訳も、意味を音声化する音読です。これは、サイト・トレーニングやチャンク・リーディングなどと呼ばれるもので、センスグループごとに書かれている日本語を手がかりに、英文を暗唱するという活動です。もちろん、1文全体がきれいに日本語訳されているものを見て英文を暗唱するという活動もありますが、これは英文を完全に覚えていないとできないので、かなり高度な活動となります。
その他、意味を音声化する音読には次のようなものがあります。
「合いの手音読」
ペアになり、一方が「将来の夢は?」「だれみたいな?」「『なぜ』そう思うの?」のようになどと合いの手を入れ、それを手がかりにもう一方が英文を暗唱します。以前ご紹介した語順表指さし音読も『だれ何が/は』『どうする』『だれ何を/に』『どこ』『いつ』『なぜ』という文字が目に入り、それを手がかりに英文を思い出すので、一種の合いの手音読です。
「漢文もどき音読」
英文を漢字や記号で表し、その漢字を手がかりに英文を暗唱するという活動です。一見難しそうですが、漢字は表意文字であり文章の意味が漢字を見るだけで分かる上、英語の語順に並んだ漢字を1つずつ英語に直していく活動ですので、比較的難度が低く、生徒には人気があります。
「品詞別穴埋め音読」
英語の文章から、(1)名詞だけを抜いて( )にしたもの、(2)動詞だけを抜いたもの、(3)形容詞(+副詞)を抜いたもの、(4)前置詞と不定詞指標のtoを抜いたもの、(5)冠詞と所有格代名詞を抜いたもの、などの5種類を用意し、それらを1つずつ穴埋めしながら音読させるものです。5回は意味を考えながら音読をすることになり、次第に英文を暗記し始めます。
この活動のいいところは、品詞の働きについて考えるようになりますし、(5)では、aとtheの違いを考えるようになります。冠詞も所有格代名詞もないところに数カ所( )を置いておくと、生徒は「え、ここ何かあったっけ?」と言いながら考え始めます。
その他、疑問詞、接続詞、代名詞などが多い場合、それらを抜いたバージョンも用意します。複数の品詞を同時に抜く場合、(副 )(接 )のように、品詞名の頭文字を入れてやります。
他にもたくさんこのような活動はありますが、拙著『英語教科書本文活用術!』をご参照ください。いずれにしても、バリエーション豊かな音読活動で生徒を飽きさせないことと、楽しく繰り返すうちに覚えられたという成功体験が音読の重要なカギとなります。
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田尻悟郎先生
1981年 島根大学教育学部中学校教員養成課程英語科卒業
1981年4月〜 神戸市・島根県の中学校に勤務
2001年10月 (財)語学教育研究所よりパーマー賞受賞
2003年〜 英語教員指導力向上研修講師
2007年〜 関西大学 外国語教育研究機構 教授
2009年〜 関西大学 外国語学部 教授
関西大学中等部・高等部 校長を兼任
(2017年4月〜2019年3月)
著書多数,テレビなど多方面で活躍中。
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