授業力をみがく
ライティング指導のプロセス
関西大学/大学院 教授 田尻悟郎
ライティングをするときは、以下のような手順があります。
1. 自分の言いたいことをまとめる。
2. それを1文ずつどの文型で表すかを決定する。
3. 言いたいことを英語の語順に並べ替える。
4. それを英語に直す。
自分の言いたいことを確認するには、マインドマップや枝分かれ図などの手法を使います。マインドマップでは中心となる概念から自由に思考を伸ばしていき、それをどのような順で述べていくかを決定して番号を打ちます(ナンバリング)。一方、枝分かれ図では、まず言いたいことを大見出しに分けて縦に書きます。それを中見出し、小見出しに分けて縦書きした後、それぞれに関して「事実・感想・理由」などを右へ書き足していきます。
例えば、我がふるさと松江の自慢は、松江城、宍道湖、温泉などがあります。これが大見出しとなります。次に、松江城に関しては、開城した堀尾吉晴親子や堀川遊覧、塩見縄手などが小見出しとなります。そして、それぞれについて、枝を右に伸ばしていくと次のようになります。
松江城
┌堀尾吉晴が1611年に建設−2015年国宝に指定−花見―階段が急−いい景色
├堀川遊覧−靴を脱いで乗船−冬はこたつ−屋根が下がる
└塩見縄手−歴史博物館が複数ある―小泉八雲記念館―怪談―ゴーストツアー
宍道湖
┌夕日―たくさんの人が写真―写真スポットがある―嫁が島−歩いて渡れる
├汽水湖−魚介類が豊富−宍道湖七珍−相撲足腰−シジミは健康にいい
└周辺に美術館など−フォーゲルパーク−花と鳥−近くにおいしいうなぎ屋
温泉
┌玉造温泉−美肌温泉―川沿いを散歩―イベント―安来節とドジョウすくい
└松江しんじ湖温泉−松江城の近く−鯛飯−一畑電鉄−出雲大社
これらをどの文型で表すかを決めて、(1)〜(4)の番号を振っていきます。(1)は「だれが→どうする」という文型、(2)は「A=B」あるいは「A=Bのように見える・聞こえるなどの五感動詞」、「A=Bになる」、「A=Bのままでいる」という文型、(3)は「いる・ある・置いてある・入っている・入れてある・行っている・来ている」という存在を表す文、(4)は受動態の文です。例えば、上の枝分かれ図の一番上の行は以下のようになります。
松江城(3)−堀尾吉晴が1611年に建設(4)−2015年国宝に指定(4)−花見(1)−階段が急(2)−景色がいい(2)
次に、第2回「中学英語のポイント」で説明したように、言いたいことを英語の語順に直し、それを英語に直していきます。日本語を英語の語順に合わせて並べ替えるので、「同時通訳和英順」(和文を英文の順に同時通訳する)と呼びます。
『だれ何が/は』 松江城は
『どうされる』 建てられた
『だれによって』 堀尾吉晴によって
『いつ』 1611年に
ここまで来たら、あとはそれぞれのセンスグループを英語に直していきます。未習語があれば、ここで初めて和英辞典を使います。英語の語順に並べ替える前に和英辞典を使うと、英語の語順を意識することなく語句を並べてしまい、意味の通らない文になることが多いからです。
松江城は 建てられた 堀尾吉晴によって 1611年に
Matsue Castle was built by Horio Yoshiharu in 1611.
最後に、直訳できないものは平易な日本語に代えたりして、自分の持つ語彙で表す工夫をさせます。例えば「花見」は「春になるとたくさんの人が桜の木の下で食べたり飲んだりして楽しみます」などとします。これを「和文和訳」と呼びます。それからまた、同時通訳和英順を行います。
『だれ何が/は』 たくさんの人が
『どうする』 楽しむ
『だれ何を/に』 食べることや飲むことを
『どこ』 桜の木の下で
『いつ』 春に
たくさんの人が 楽しむ 食べることや飲むことを 桜の木の下で 春に
Many people enjoy eating and drinking under the cherry trees in spring.
感想を表す表現はIt was …ing、I was …edなどを代表として(2)の文型で表すことが多く、(1)の文型で感想を表すのは、中学ではI enjoyed …やI had a good / hard time. と作為動詞(make+目的語+形容詞)などに限られることや、I enjoyedの直後には、食べ物やイベントなどがきたり、動名詞を使って何をすることを楽しんだのかを表したり、oneselfを使うこともできることなどを教えるとよいでしょう。
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田尻悟郎先生
1981年 島根大学教育学部中学校教員養成課程英語科卒業
1981年4月〜 神戸市・島根県の中学校に勤務
2001年10月 (財)語学教育研究所よりパーマー賞受賞
2003年〜 英語教員指導力向上研修講師
2007年〜 関西大学 外国語教育研究機構 教授
2009年〜 関西大学 外国語学部 教授
関西大学中等部・高等部 校長を兼任
(2017年4月〜2019年3月)
著書多数,テレビなど多方面で活躍中。
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